完璧御曹司の溺愛
その瞬間少しだけ、何かを期待するように理央の胸が鳴った。
でも理央はまだ、その些細な胸の高揚に気づかない。
「瀬戸悠斗という、3年の生徒だ。お前、仲がいいのか?」
瀬戸…?
瀬戸先輩……?
もしかして本当に、瀬戸先輩は存在してる……?
ここに来てからずっと、雲を掴むようにあやふやだった理央の中の瀬戸先輩の記憶は、その瞬間、頭の中に鮮明に浮かび上がった。
あの理科室で、理央を後ろから守るように抱きしめた、長い腕のかすかな重みや、耳元で囁かれた優しい声。
あの人は、一体…………
その時、隣にいた咲から「きゃあっ!」と、悲鳴のような声が上がった。
その咲の瞳は、驚きと歓喜に満ちていた。
「ほっ、本当に!?本当に、理央を連れてきてくれたのは、あの、瀬戸先輩なのっ!?」と、椅子に座っている三春に激しく詰め寄りにいく。
三春は、そんな咲に若干圧倒されながら「あ、あぁ…」と冷静に返した。
興奮がおさまらない咲は、今度は理央の方へ向き合ってくる。
「すごいっ!何で?どうして!?一体どんな接点があって、そうなったの?理央!」
理央の手を取りながら、一人キャアキャアとはしゃぐ咲の様子に、三春は思い出したように「そうだった」と顎に手を乗せた。
「そう言えば、瀬戸は人気者らしいな。先日、ここに来た女子生徒達が話しているのを聞いたが、この学校にファンクラブがあるそうじゃないか?」
よくぞ聞いてくれた!と、咲の目に一層輝きが増す。
「そうなの、三春ちゃん!先輩のファンクラブがあるの!それくらい先輩は、皆の憧れの的なの!」
「ファンクラブ…?」
今どき、そんなものがあるとは…と、理央は驚いた。
夢の中の存在だと思っていた人は、やはり雲の上の人なのかもしれない。
ファンクラブなんて、まるでテレビの中のスーパーアイドルのようだ。
「だって、先輩はカッコよくて、優しくて、頭が良くて、運動もできて、完っ璧なの!そんな人、誰もほっとかないでしょ!?」
「それで、ファンクラブか?」と、三春は若干呆れ顔。
「女子高校生の考える事は理解できんな…」と、ため息混じりに呟く。
「それにしても瀬戸先輩、ここへ転入してきてまだ一ヶ月くらいなのにすごいよね!今まで学校一だった裕太の人気なんて、あっさり取られたんだからさ!」
咲は、ざまぁみろ!というように、不敵な笑みを浮かべて言った。
よほど、理央を倒れさせた事を根に持っているようだ。
「そっか…そうだったんだ」と、理央は納得する。
私は絵のコンクールが近い為に、一ヶ月前から休み時間もずっと、一人で美術室にこもっていたから、当然瀬戸先輩を知らないはずだよね…。
あれ?
でも、どうして先輩は、私を知っていたのだろう?