完璧御曹司の溺愛
「どうして?」
「どうしてもこうしても、また会いに来るって言ったでしょ?僕、女の子と交わした約束は絶対に守るよ?」
「はぁ…」と、理央からは無意識にため息が漏れたが、男性は全く気にしない。
「ねぇ、考えてくれた?僕とのお付き合い」
「と、遠矢様!女性にいきなりそのような発言、あまりに失礼なのでは!?」
慌てたように側に来た市川の口出しを受けて、彼はニコニコの笑顔を崩し、面白くなさそうに市川を見おろす。
「市川には関係ないだろ?今は下がってて欲しいんだけど?」
「ですが…!」
「僕の言うことが聞けないの?」
その冷淡な口調に、場の空気がピリリとする。
「……承知しました」と、市川はおずおずと頭を下げて、彼から引き下がった。
「ごめんね、邪魔が入った」と、彼は再び理央に笑顔を向ける。
「えぇっと…、お名前は、遠…矢さん?」
「うん。僕の名前はね、野澤遠矢(とおや)。あれ、昼に会った時、言ってなかったっけ?」
「…今、初めて聞きました」
「そう言えば僕も、君の名前聞きそびれてたよ。自己紹介遅れちゃってごめんね。でもさ、僕たちに名前なんてさほど重要じゃないのかも…」
「えっ、どうしてですか?」と、理央は首を捻る。
「だって君の名字は将来、野澤になるんだよ?僕達、結婚するんだから」
いつ、そうなった!?と、理央は、心の中で叫び声を上げた。
「挙式はどこがいいかなぁ?やっぱり、海辺の教会なんか、雰囲気でるよねぇ?あ、でも、和装がいい?君は、ドレスも着物も、どっちもすごく似合いそう!」
「え、えっ…ちょっ…」
「なんなら一度、式場の下見にでも行ってみる?僕は、日本でも海外でもどちらでも構わないよ!」
遠矢のマシンガンのように途切れを知らないセリフに、理央の頭は混乱してくる。
「あ、あのっ…」
「あぁ、そうだ!苗字が一緒になるにしても名前くらいは聞いておかなきゃね。お互いの呼び名ってすごく大切だし!僕の事は、遠矢で構わないよ。君の名前は、何て言うの?」
そう言われた時、突然後ろから、肩をグッと引き寄せられた。
「この子の名前は瀬戸理央だ…!」
聞き慣れた低い声。
顔を見なくてもその声が誰かを知り、安心感から理央の強張った身体が一気にほぐれていく。