完璧御曹司の溺愛
「ゆ、悠斗!お前、いつの間に!」
理央を後ろから抱きしめた悠斗に、遠矢は一瞬で目を丸くした。
「それは、こっちのセリフだ。勝手に現れて妹を口説くな!」
悠斗の息が、少し上がっている。
どうやら玄関を開けてすぐに、駆け込んで来てくれたらしい。
「は、い?妹?お前の?」
「そうだよ、親父が再婚したんだ。理央は、その再婚相手の連れ子だ」
「そんな事…、お前、イギリスにいた時は、一言も言ってなかったじゃないか?」
「元々、俺は親父の再婚なんて興味がなかったからな。だいたい遠矢には直接、関係のない事だろ?」
「ふぅん…、妹ねぇ。僕はてっきり、ここのお手伝いの子だと思ってたよ。どうりで、親父さんやお前の事を、そう言う呼び名にしてるわけね」
遠矢は納得したように、顎に手を添える。
理央が顔だけで悠斗に振り向くと、悠斗と目があった。
「全く、油断も隙もないんだから…」と悠斗は髪をかきあげて、深くため息をつく。
「玄関入った途端、理央が遠矢といるの見て、死ぬほど焦った…」と呟く。
「理央、こいつはね、俺の従兄弟だよ?」
「従兄弟っていう事は、おじさんの?」
「そう。遠矢は親父の弟の子供なんだ」
「そうだったの」
理央はやっと納得出来た。
この家に無断で立ち入れたり、市川さんに対しての強気な態度も、そういう事だったんだ。
「不本意ながらそういう事。ねぇ理央、遠矢は女に手を出すのが早いから、遠矢から三メートル以内、絶対に入らない事!分かった?」
「僕を、ばい菌みたいな扱いするなよ…」
遠矢が不満げに口を尖らす。
「ばい菌だろ?お前のじょう舌さも、手の早さも立派な病気だ。理央に変な菌をうつさないでくれ」
悠斗は理央を隠すように、自分の背中へ追いやる。
それを見た遠矢は、更に面白くなさそうに言った。
「あーぁ、もう遅いかもな。僕さ、実はもう理央ちゃんにプロポーズしちゃったし…」
「プロポーズ…?」
悠斗は、心底怪訝そうに眉をひそめた。
「そうだよ?言っちゃあなんだけど、今日、畑で理央ちゃんと初めて会って、僕、一目惚れしちゃたんだよね」
「一目惚れ…?」
どんどん悠斗の不満が、色の濃いものに変わっていく。
空気がピリピリと張り詰めていってるのに、それには気が付かず、遠矢は明るい口調で話し続ける。
「そっ、なんかビビっときたんだ。運命的な何かがさ。僕、確かにすぐに女の子口説いちゃうけど、こう見えてプロポーズは初めてなんだよ?」
「…ふぅん…。お前、それ本気で言ってる?」
「ん?本気だよ?僕、理央ちゃんをお嫁さんにしたいな。そういや、いとこ同士なら結婚出来るんだよね。それ以前に、血の繋がりなんかないから何も問題はな…ぐぇぇっ!」
我慢の限界を迎えたらしい悠斗は、遠矢の胸ぐらを掴み、首元までグイグイと捩じ上げた。
「ふざけるな。お前みたいな奴に、理央は絶対やらないからな!」
「…ゆ、ゆうどっ…!ぐ、ぐるじい……!!」