完璧御曹司の溺愛
遠矢は理央に手を伸ばし、助けを求めた。
「り、りおちゃ……だずけで…!ぼぐ、死んじゃう………」
「ゆ、悠斗っ」と、理央は思わず悠斗に駆け寄るけれど、悠斗はニコニコと笑顔のままだ。
「理央、こいつはこのくらいじゃ死なないから、何も心配いらないよ」
そして、再び遠矢に視線を向ける。
「さっきの軽はずみな言葉を、今すぐに訂正してもらおうか?」
「わ、がった!わがっだから、ギブッ、ギブゥッ!!」
遠矢が悠斗の腕をバシバシ叩くと、悠斗はパッと、その手を離した。
遠矢はその場にズルリと座り、浅い呼吸を繰り返す。
「はぁっ…はぁ…。つかお前、容赦なさすぎ……。そんなに理央ちゃんが大事なの…?」
「当たり前だ。理央は誰にも譲らない」
「譲らない?兄にしては過保護過ぎないか?所詮、義理だろ?」
「義理だからだよ。お前が言ったように俺にも、理央と血の繋がりなんてないから」
「………ふぅん。そう言う事…」
遠矢は、先程から真剣な表情を崩さない悠斗を見て、全てを悟ったように口角を上げた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「それにしても意外だな~。僕と違ってお前は、そういう事に関心なさそうだったじゃないか?ま、お前の場合は黙ってても、女の子の方から勝手に寄ってくるんだけどね…」
「何が言いたいんだよ」と、冷めた態度の悠斗に対し、遠矢はニヤニヤと笑う。
「べっつにぃ?ただ、泣くだろうなと思ってさ。お前にずっと健気な恋心を抱いてた、イギリスの女の子達」
「罪作りな奴がいたもんだね」と、遠矢はわざとらしくため息をついた。
遠矢さんの言い方だと、悠斗はイギリスの学校でも、そうとうモテて、きたみたい。
一瞬、不安になった理央だけれど、悠斗はすぐに、バッサリと切り捨てるように言った。
「興味ない。俺が気にするのは理央に関する事だけ。理央さえ居てくれれば、他の誰もいらない」
遠矢に断言するようなその言葉に、理央の胸はキュンと弾ける。
悠斗のような人に出会えて、恋が出来て、本当に良かった、と心から思う。
「それより、お前のふざけた言葉、訂正するんだろうな?理央に一目惚れしたとか、プロポーズしたとか」
「ま、確かに、プロポーズはまだ気が早かったかもしれないけど。でも、一目惚れってどうしようもない事でしょ?目に入った途端、好きになっちゃう訳だからさ」
悠斗は理央を見つめた。
そして「確かに、そうかもな…」と呟いていた。
そんな事は、誰よりも俺が一番分かっている。
俺も、理央に恋した瞬間から、この想いを止められなくなった……
この先、俺達は兄妹になると頭では分かっていても、身体も心も理央を求めて動いていた……
けれど遠矢が、よりにもよって理央に、自分と同じ恋の落ち方をしたのが気に食わず、歯がギリリとなる。
そんな悠斗の心を読んだかのように、遠矢は楽しそうに笑った。
「余程、僕が理央ちゃんに惚れたのが気に入らないみたいだね。嬉しいな。付き合いは長いけど、悠斗のそんな顔、初めて見たかも」
衝動的に、また首を絞めてやりたくなったが、理央が先程から俺と遠矢を、ハラハラした表情で見ていることに気付いていた為、握った拳はなんとか緩めた。
「そんな事を言いに、わざわざイギリスから帰ってきたのか?まだ、単位とれてないんだろ?ついに留年する気になったのか?」
「ちょっとしたバカンスだよ?僕より先に卒業単位とって、さっさと帰っちゃった嫌味な王子様に会いにね」