完璧御曹司の溺愛


「じゃあ、もう用は済んだわけだ。玄関はちょうど、遠矢の後ろだよ」


 悠斗はニッコリと笑い、遠矢に帰宅を促す。


「えっ、悠斗君?」


「おーい、市川?お客様がお帰りになられるそうだよ?」


 遠くから、こちらの様子を静かに見守っていた市川が、悠斗の声に反応し、歩み寄ってくる。


「い、市川?まさかこの僕を、このまま帰すつもりじゃないよね?」


「申し訳ございません、遠矢様。私にとって、若様のご命令は絶対でございますので」と、容赦なく、遠矢の腕を掴む。


「ちょっと、ちょっと、冗談でしょ?僕まだ、親父さんにも、新しい奥さんにも挨拶してないし!」


「大丈夫。会ってないなら、何も問題はないから。今日は遠矢に会わなかった事にしておくよ」と、悠斗の笑顔は崩れない。


「つ、つれないなぁ。従兄弟なんだから夕食くらい招待してくれたっていいじゃない?ねぇ、市川、今日の夕食は何なの?それくらいは教えてくれるでしょ?」


 市川は渋々と言った表情で口を開く。


「カレーでございますが…」


「カレーか。ずいぶん平凡だね。有名なシェフでも呼ぶの?」


「いえ、理央お嬢様がお作りになられたカレーでございます」


「えっ、理央ちゃんが作ったカレー?それ、いいなぁ、僕も食べたいなぁ…」


 お腹を空かせた子犬のような顔で、遠矢に見つめられた理央は、遠矢の事を放ってはおけなかった。


「あの…、ごく一般的な家庭のカレーです。遠矢さんのお口に合うか分からないけど、食べていかれますか?」


「え!本当に?僕もご馳走になっていいの?」


 遠矢の目がパアッと輝く。


「はい。沢山あるのでどうぞ」


「あぁ、理央ちゃんは優しいなぁ。まるで、天使みたい。でも、ここの若様がなんて言うかなぁ?かなり僕にご立腹みたいだし…?でも、幼い頃から兄弟のように育ってきた従兄弟を簡単に追い出すような、そんな薄情な男じゃないと思うんだよね?理央ちゃんはどう思う?」


「は、はい。それは、私もそう思います。悠斗はすごく優しいし…」


「うん、うん、そうだよね。僕も同感、同感」と、遠矢はチラチラと悠斗に視線を送る。
 

 「はぁ…」


 理央を味方につけてまで居座ろうとする、調子の良い従兄弟のセリフに、心の底から呆れた悠斗は、額に手を当てて、大袈裟にため息をついた_____







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