完璧御曹司の溺愛


「理央…」


 悠斗は、不安そうな理央が座っているベッドに腰かけた。

 そして、少し苛立ったように髪を掻き上げる。


「昨日、泊まっていきたいと言った遠矢を、無理矢理にでも追い出すべきだった…」


 昨夜、理央のカレーを堪能した遠矢は、今夜は泊まりたいと秀和に頼んだ。

 秀和にとっては、久しぶりに会った可愛い甥っ子。

 断る理由もなく快諾し、遠矢は客室へと案内されていた。



「理央、大丈夫?本当に、何も変な事されてない?」


「ん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ…」


「遠矢に普通の常識は通じない。俺がいつでも側にいて、理央を守ってあげられたいいのに…」


 悠斗は心苦しそうに、指先で理央の頬を優しく撫でた。


 久しぶりの悠斗の指先がくすぐったい…。


「鍵はすぐに何とかする。本当は遠矢がこの家にいる間、理央はこの部屋に、こもっててもらいたいくらいだけど、さすがにそうもいかない…」


「心配しないで?私、大丈夫だから」


 悠斗は今、学校と、おじさんのお仕事との両立で疲れてるのに、余計な心配をかけさせたくない。



「そう言えば、理央のパジャマ姿見るの初めてだね」


 悠斗に見おろされて、自分が薄着のパジャマ一枚でいる事に、今更ながら気がついた。


「あっ…」


 顔が、赤くなってしまう。

 そんな、理央の分かりやすい表情を見て、悠斗はクスリと笑って言った。


「理央は、俺を追い出したりしない?」


「そ、そんな事しないよ。けど…」


「けど?」


「この状況は、恥ずかしい…」


 ずっと、理央の頬を愛でていた悠斗の指の動きが、ふと止まった。

   
「悠斗?」と、見上げると、困惑したような瞳と目があう。

 口元を手の甲で覆いながら、悠斗は理央からスッと目を逸らした。


「まずい…」と、呟いた悠斗の顔が少し赤いような気がする。


「悠斗、もしかして、どこか具合悪いの?」


 心配する理央の不安をはらうように「違うよ」と微笑んだ悠斗は、理央の額に自分の額をコツンと押し当ててきた。


 額から悠斗の体温が伝わる。

 何だか今日は、自分より熱い気がする。


 やっぱり、働きすぎなんじゃ…


「悠斗、無理してないよね…?」


「うん。それより理央は、そろそろ朝ごはんの準備の時間だよね?」


「う、うん」


「じゃあ俺は出てくよ。学校には、一緒に行こうね」


「うん」


 悠斗は理央の髪をひと撫ですると、部屋を出て行った。


 何だか、うまくはぐらかされたような気がして「悠斗、本当に大丈夫なのかな?」と、理央の心配は拭えなかった。





 悠斗が理央の部屋を出たタイミングで、理央の叫び声を聞いてやって来た涼子や秀和、市川が、理央の部屋のドアの前に現れた。


「理央、どうかしたの?」


 涼子の心配そうな声に「ネズミが一匹入り込んだみたいです」と、悠斗は答えた。


「ネズミが?理央ちゃん、大丈夫だったのか?」と秀和も涼子と同じく、心配そうに顔を曇らせて聞いてくる。


「うん。もう追い出したから問題ないよ。でも、今度見かけたら殺処分しておくから」と、悠斗は答える。


「そうだな。それにしても、今までこの家にネズミなんて出た事なかっただろう?市川」


「はい。衛生面には日頃から気をつけておりますので。ですが、念には念を入れて、一度業者に委託しましょうか?」


「あぁ、そうした方がいい。理央ちゃんに不快な想いはさせたくない」


「かしこまりました」



 悠斗の言うネズミが遠矢の事とは知らない秀和達は、ネズミの駆除を依頼する事にしたらしい。


 生真面目な家族の会話を背後に聞きながら、悠斗は一旦私室に戻り、学校の支度を始めた____



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