完璧御曹司の溺愛

 
 二人の口喧嘩を隣で聞きながら、理央は今朝、ベッドで悠斗が「…やばい」と呟いた時の事を思いだした。


「お前こそ、王子様とか言って、乙女心をいつまでも引きずってんじゃねーよ!そんな清らかな男は絵本の中にしかいねーんだよ、バーカ!バーカ!」


「はっ?バカ多過ぎっ!人をどれだけバカ扱いするつもり!?」


「自分に聞いてみろよ!」


「はぁっ!?あんたねぇ…」


「やっぱり、そうなのかな…」


 理央の小さな呟きに、二人の口喧嘩がピタリと止まる。


「義理でも兄妹だと、手を出してくれないの?」


「り、理央!?」


「お前って、見かけによらず大胆な奴だな〜。そういう女、嫌いじゃないぜ!」と、裕太は楽しそうに笑う。


「だから!あんたには言ってないってば!!」


 今日の朝、悠斗の方から目を逸らされてしまった。

 私は、悠斗の身体の調子を気にしたけれど、もし、それが原因じゃなかったとしたら…

 本当に裕太の言った通りだったとしたら…


 悠斗はこの先、私にキス以上の事は、してくれないのかな…


「それって、何だかすごく淋しい…」


「り、理央、大丈夫だよ!」と、咲がすかさず声をかけてくれる。


「咲ちゃん」


「先輩って理央の事、ものすごーく好きじゃない?私、先輩が保健室に理央を連れてきてくれた時の事、三春ちゃんに聞いた時から、先輩の気持ちに気付いてたよ?」


「えっ、そんなに前から?」


「うん。保健室でずっと手を握っててくれるとか、大切に想ってる子にしか出来ない事だもん。先輩の理央を見る目とか態度も、明らかに他の子とは違うし。兄妹とかそういうのは関係なく、先輩は理央自身に惹かれたんだから、もっと自信もっていいと思う!」


「そ、そうかな?」


「そうだよ!先輩は、そんな小さな事で、理央を悲しませるような事はしないよ」


 小さな事…


 悠斗と私が恋愛関係になる事は、家族や周りの目を気にする私にとって、ずっと大きな問題だった。

 だけど悠斗は、それよりも大きな愛で、丸々私を包んでくれる。


 今朝、悠斗が電車の中で手を繋いでくれた時もそう。


 不安になったら、俺だけを見て、信じて?と言ってくれた。


 悠斗がくれる愛情はいつも真っ直ぐで、優しくて、穏やかで、私を温かな幸福で満たしてくれる。


 今も、悠斗のポケットで指を重ねた感触が、手の中に残っているのに、これ以上、何を不満に思う事があるだろう。


「なぁ、そんな悠長な事言ってていいのかよ」






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