完璧御曹司の溺愛
その日、理央は市川に教えてもらった、近くのスーパーへ寄ってから帰宅した。
悠斗は、おじさんの会社へ行っている。
校門の前に、今日も当たり前に迎えにきた黒塗りの車。
その中で、悠斗は制服からスーツに着替え、おじさんの会社へ向かう。
あんなふうに迎えを寄こされるのを、悠斗は嫌っていたはずだ。
高校生の間は、瀬戸秀和の息子という肩書きにとらわれずに、自由に過ごしたいと……
「理〜央ちゃん!」
夕方、キッチンに立っていると、遠矢が寄ってきた。
「今日の夕食はなぁに?」
昨日と変わらず今日も、瀬戸家に居座っている遠矢は、理央のすぐ隣でニコニコと楽しそうだ。
「遠矢さん…」
「ねぇねぇ、こうして一緒にキッチンに居るとさ、新婚さんみたいだね!」
遠矢に、肩に触れられそうな気配を感じて、理央は持っていたナイフの先をスッと遠矢へ向けた。
遠矢は、いきなり目の前に現れたナイフの先端に、思わず両腕を上げる。
「な、なーに?理央ちゃん。いきなりそんな物騒な物向けて?」
「キッチンで、もし遠矢さんに触れられそうになったらこうしてって、悠斗に言われたの」
今朝の電車の中で、理央は悠斗から遠矢撃退法の説明を受けていた。
「俺がいない間、理央は自分の身を自分で守らなければいけないからって…」
「ふぅん。それで?」
『あいつが狙うとしたら、理央が無防備な時だよ。理央の部屋には鍵を付けるし、トイレもお風呂も鍵をかけるから問題ないとして、だとしたら次に狙うのは…?』
「で、あいつ、僕がキッチンにいる理央ちゃんを狙いに行くって言ったんだ?」
理央はコクンと頷いた。
「キッチンは、私が背中を向けている無防備な場所だから」
遠矢は、感心したように笑う。
「へぇ〜、あいつ、よく分かってるじゃないか?大正解!男は、キッチンに立ってる女の子の後ろ姿に、そそられるんだよ?それにしても、悠斗も男の子だね。言い換えればそれは、自分もそういう時の理央ちゃんを襲いたいって言ってるんだから」