完璧御曹司の溺愛
「ゆ、悠斗は、あなたみたいに、人の気持ちを無視して踏み込んできません」と、理央は言い切る。
「そうかなぁ。男は少し強引なくらいが、ちょうどいいと思うけど?」
「強引な人は嫌い…」
「でも、悠斗なら?あいつなら強引でもいいの?」
確かに、相手が悠斗なら何をされたっていいと思ってしまう。
むしろ、そんな悠斗の気持ちが嬉しいかもしれない。
そう感じた理央は頬を染め、黙って頷いた。
「いいなぁ…その顔。ますます自分の物にしたい。あいつから奪いたい…」
遠矢がペロリと自分の唇を舐めるのを見て、理央は無意識にナイフを持つ手に力を入れた。
「じょーだんだよ、じょーだん!本当に何もしないから、そろそろ、その物騒な物おろして欲しいな?」
「本当に?」
「僕だって人の子だよ?野獣じゃないんだから、いきなり理央ちゃん押し倒して、どうこうするわけないじゃない?ここは親父さんの家で、親父さんは理央ちゃんを大切にしている。一番の親玉を敵に回すわけないでしょ?」
理央はそれを聞いて一旦ナイフを置くが、不信の目を遠矢に向けた。
遠矢の口がうまい事も、悠斗から注意するよう言われている。
「あ、まだ僕の事信じてくれてないね?困ったなぁ…、どうしたら信じてくれる?」
「じゃあ、喋らないで下さい」
「えー!それは無理だよ〜?僕からそれをとったら残るのは顔だけだし。まぁ、こっちで勝負もありなんだけどね!ね、理央ちゃん?正直なところ、僕と悠斗、どっちの顔がイケてる?」
理央は遠矢の問いかけを無視して、悠斗の事を考える事にした。
今日は悠斗、何時に帰ってくるのかなぁ?
夕ご飯、食べてくれるかなぁ?
「ねぇ、ねぇ、理央ちゃん、聞いてる?僕ね、しばらくここで暮らす事にしたから」
けれど、遠矢からの驚きの発言に、思わず思考が飛んでしまった。
「えぇっ!な、何でですか?」
「それはもちろん、決まってるでしょ?もっと理央ちゃんといたいから…」
理央は再び、手元のナイフを握る。
「…じゃなくて!僕の両親、実は今、仕事で海外にいるんだ。お手伝いも全員引き連れて行っちゃったから、誰もお世話してくれる人がいない。だから学校の長期休暇が終わるまで、ここにいる事にしたんだよ。理央ちゃん、これから僕の食事の準備もお願いね」
「は、はい…」
「あ、今すごく嫌な顔したでしょ?」
「えっ、い、嫌っていうか…、私が遠矢さんといると、悠斗にまた、余計な気を遣わせちゃうんじゃないかと思って…」
「そんなに悠斗が心配?大丈夫だよ。あいつ、結構神経太いからさ!強靭な鋼みたいなメンタルしてるよ?それより、僕のほうが小うさぎみたいなハートなの!お部屋、理央ちゃんの隣にしてもらうからさ、毎晩癒やしてよ?」
理央がまた、ナイフの先を向けてくるのを見て、遠矢は「冗談!」と、何度目か分からない浮ついた笑みを浮かべた。