完璧御曹司の溺愛


「ごめん…」と、悠斗は呟くように言った。


 いきなり激しいキスをしてしまった事に、悠斗は謝ったのだろう。

 けれど、その黒い瞳は、情熱的に揺れ続ける。

 切なげに悲痛そうに、何かを必死に耐えているようにも見える。


「悠斗…、もしかして、生殺し…?」


 理央の言葉に、悠斗はハッと目を見張る。


「どこで覚えたの?そんな言葉」


 悠斗の声は途端に、いつもより低い声に変わる。


「今日…裕太が言ってたから…」


「何て?」


「私と同じ屋根の下に住んでいる悠斗がかわいそうって…。妹っていう理由だけで、手を出せないからって…」


「ふぅん…」と、悠斗は面白くなさそうに、顔をしかめる。


 何だろう…?

 今日の悠斗は、いつもと違う?


 いつもの笑顔で包み隠さず、正直に思っている事を表情に浮かべているように見える。


「かわいそう…ね…」


「もしかして悠斗、今怒ってる?」


「怒ってないよ?」


「嘘…。何だか、いつもの悠斗と違うよ?」


 その時、理央は悠斗とのキスの後に感じた、不思議な甘い味を思いだした。


 何だか、少しだけ知ってる味がした。


「悠斗、もしかしてお酒飲んだ?」


「理央、お酒の味、知ってるの?」


「昔、お母さんが飲んでたワインをジュースだと思って、一口だけ口にしちゃった事があって…。あの時と同じ味だった。悠斗のキス…」


 すると、悠斗はすんなり白状する。


「………今日、接待に同行させられて、相手の社長に無理矢理、飲まされた」


「そんな…。おじさん、一緒じゃなかったの?」


「親父は今日、別の仕事だったから」


「悠斗、体調は?こんな時間までお酒を飲んで、身体は辛くない?」


「大丈夫だよ。年齢的にも最初は断ってたんだけどね。途中から信じてもらえなくなってきて…」


「悠斗、スーツ着てたら大人っぽいから、社長さん、年相応に見えなくなったのかな?」


「そうなのかな?」


「うん。私も最初、大学生くらいに見えたよ。すごくカッコいいもん」



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