完璧御曹司の溺愛

紫陽花




 理央はその夜、夢を見た……。


 目の前に、一戸建ての新築の家が建っている。

 シンプルで可愛らしい、洋装の家だ。


 小さな門を抜けて、アプローチへ足を踏み出す。

 暖かみのある石だたみの道は、玄関まで緩いカーブを描いている。

 庭には、鮮やかな緑の芝生の絨毯が敷き詰められ、花壇には、手入れが行き届いている花が、瑞々しく可憐に咲いている。


 玄関前の段差の脇に、美しい紫陽花が顔を覗かせていた。

 梅雨に濡れた青と紫の小さな花同士は、身を寄せ合うように集結し、丸い形を作っている。


「綺麗……」


 理央がそう呟いた時、玄関のドアが開いた。


 中から現れたのは悠斗だった。


 制服でも、スーツでもない、私服姿の悠斗。


「理央、お帰り。今日は早かったんだね」


 悠斗は、理央がよく知っている優しい顔で微笑んだ。


「そんなところで何してるの?夕方から雨が降るみたいだし、早くうちに入っておいで?」


……うちに?


「今日の夕食は、理央の好きな物にしたんだよ。口に合うか分からないけど…。そうだ、ちょっと味見してみて?」


 悠斗は嬉しそうにそう言って、玄関のドアを片手で大きく開いてくれた。


「……ここって、もしかして、悠斗と私の家?」


 理央の言葉に、悠斗は少し戸惑ったような顔をしたが、すぐにニッコリと微笑む。


「そうだよ。俺達の家だよ」


 よく見ると、ドアに手をかける悠斗の左手の薬指に、シルバーのリングが光っている。

 理央は、自分の左手の薬指に目を落とした。

 シンプルで細身のリングは、悠斗とお揃いのものだった。

 繊細で美しい宝石が施され、キラキラと光り輝いている。


「私達、もしかして結婚したの?」


 紫陽花の前から一歩も動こうとしない理央に、痺れを切らしたのか、悠斗は理央の元へ歩んできた。

 そして、理央をゆっくりした手つきで優しく抱きしめる。


「うん。俺達、結婚したんだよ」


 理央は、悠斗の背中にそっと手を回した。


「そっか、良かった……」


 なぜだか分からないけど、目頭が熱くなる。

 悠斗の胸に頬を寄せ、目を閉じると、涙が一筋流れていった____




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