完璧御曹司の溺愛
互いに傘を開き、家までの道を、二人でゆっくりと歩き出す。
「悠斗、二日酔いは?もう大丈夫なの?」
「市川お手製の、蜂蜜入り生姜ドリンクを飲んだら、一発で治ったよ」
「蜂蜜入り生姜ドリンク?」
「うん。蜂蜜と生姜は、滋養にいいんだよ?二日酔いじゃなくても、風邪をひいて体調を崩した時にも効果があるんだ」
「そうなんだ。悠斗が元気になって良かった…」
今朝はベッドから降りられないくらい辛そうな悠斗を見ていた理央は、ほっとして表情を緩めた。
「市川さん、そんなに効き目絶大のドリンクを作ってくれるんだね」
「俺、小さい頃は身体が弱くてさ、しょっちゅう体調を崩してて、その時から市川が作ってくれてたんだ」
「悠斗って、身体が弱かったの?」
「うん、今は風邪なんて滅多にひかないけどね…」と、悠斗はニコリと笑う
「だから遠矢と一緒に色んな習い事したんだよ?ボクシングとか、空手とか、サッカーにバスケ、水泳も。その時にきっと、身体と一緒にメンタルも鍛え上げられたかな」
「なるほど。だからあの時、遠矢さん…」
納得したように頷く理央を見て、悠斗が不思議そうな顔をする。
「あ、あのね、遠矢さんが昨日言ってたの。悠斗は強靭な鋼みたいなメンタルをしてるんだって…」
「鋼…」と呟いて、悠斗は苦笑する
「確かに、間違ってないかも。今の仕事してる時に、あの時の努力が、実を結んでるなって思うときあるから」
「悠斗、平日もお休みの日も、お仕事毎日頑張ってるよね?学校に通いながらなんて、私には絶対出来ない事だから本当に凄いと思う」
理央は尊敬の眼差しを悠斗に向ける。
悠斗は少し照れたように笑う。
「ありがとう。でもね正直、何度か音を上げそうになったんだよ?特に学校帰り、あの黒塗りの車が迎えに来てるのを見たときとか、このままどこか遠くに逃げられたらいいのにって…」
「そ、そう…だよね。悠斗、家のこととかで、あんまり縛られたくなかったんだよね?」
「ずっと、跡継ぎなんかごめんだって思ってたよ?高校を出たら自分の好きなように生きてやるって思ってた。理央に出会うまではね…」
「私に…出会うまで?」
「うん。今は、これでいいと思ってる。俺、親父の跡を立派に継ぎたいから。いや、親父以上に、今の会社の業績を伸ばすつもりでいる」
「すごい変わり様でしょ?」と、悠斗は足を止めて、理央に向き合った
「俺がこんなに毎日頑張れるのは、理央のおかげなんだよ」
「私、悠斗に何もしてあげられてないのに?」
「十分だよ?理央が俺の側にいてくれる、それだけで頑張れるから」
「悠斗…」
「でも、今日は休憩。親父が今日、久々に仕事を休ませてくれたんだ。だから、理央とゆっくり散歩でもしたいなと思って…」