完璧御曹司の溺愛


「花言葉…何だろう…?こんなに可愛くて綺麗な色をしているから、素敵な意味があるんじゃないのかな?」


「そう思うでしょ?でも、実際は逆なんだ」


「どういう言葉なの?」


「紫陽花には、浮気とか、移り気っていう意味があるんだよ」


「…あんまり、いい意味じゃないんだね…」


「紫陽花の花の色が変化しやすいから、そういう言葉になったそうだけど…」


「そうなんだ…」


 しょぼんと悲しむ理央に、悠斗が言葉を続ける。


「でもね、他にもあるんだよ?紫陽花の花って、沢山の花が身を寄せ合って咲いているでしょ?家族の繋がり、一家団欒って意味もあるんだ」


「そっちの方が素敵だね!」


「うん、そうだね」


 悠斗は理央に、にこやかに頷いた。

  
 理央はふと、今朝、夢の中で紫陽花を見たことを思い出した。

 理央と悠斗の住む家に咲いていたあの瑞々しい紫陽花は、二人が結婚し、家族になった証。


 いつか、あの夢が現実になればどんなに幸せだろう…と、理央は思う。


 悠斗が理央の夫となり、理央が悠斗の妻となる。

 一戸建てのあの家で、理央は優しい夫の帰りを待つ。

 悠斗との愛に溢れた家庭。

 いつか、悠斗との間に子供が産まれたら、男の子だろうか、それとも女の子だろうか。

 悠斗はきっと、優しさと厳しさを兼ね備えた、良き父親となるはずだ。

 いつか子供達が巣立ったら、二人仲良く、死ぬまで一緒に暮らせたらいい。


そんな些細な幸せな未来を、そっと胸に抱くのは許されるだろうか……。



「雨、あがったね…」


 空を見上げながら言った悠斗が、嬉しそうに傘をたたむ、そんな悠斗の仕草をジッと見つめていると、悠斗が理央の視線に気がつく。


「どうしたの?」


「ううん。何でもないよ」


「ねぇ理央、早く傘をたたんで?」


「どうして?」 


「いいから」


 急かされながらも傘を畳むと、早速、腕をひかれて抱きしめられた。


「悠斗…」


「ずっとこうしたかったのに傘が邪魔だった。やっと雨が止んでくれた」


 悠斗の規則正しい胸の鼓動。

 聞き慣れたその音に、理央は安心して、悠斗に身体を預ける。


「紫陽花、来年も悠斗と見られるかな?」


「もちろん、見られるよ。来年も再来年も、理央がもういいって言うまで、連れてきてあげる」


「本当?」


「うん、本当だよ」と、悠斗は理央の髪にキス落とす。


「私、怖い……」 

      
「怖い?」


「こんなに幸せでいいのかな?って、時々不安になるの…」


「幸せでいいんだよ?理央は何も不安になんて思わなくていいから」


 悠斗がそのまま髪を撫でてくれる。

 その優しい仕草に、胸が切ないくらいにギュッと縮む。
  

「大丈夫。俺が守るよ」


「悠斗…」


「約束する…」


 悠斗は誓うように、理央の唇に口づけた。

 悠斗の強さと優しさが、理央の身体の中に流れ込んでくるよう。


 私は悠斗にこんなにも愛されてる。


 そう自覚するのに十分なくらい、悠斗はいつも理央にだけに特別な愛を送ってくれる。


 それでも私は、まだまだ悠斗が足りない。

 愛されれば愛される程、もっと悠斗を求めてしまう。

 自分の中に、こんなにも貪欲な自分がいた事に驚かされるくらい。


 悠斗の背中に腕をまわせば、悠斗はそれに応えるように理央の身体を抱きしめるから、理央はまた、悠斗の口づけが欲しくてたまらなくなる。

 悠斗を見上げて、期待するような瞳で見つめてしまう。



「その顔を見せられたら、理央の全てを奪いたくなる」


「悠斗…」


「次は、理央の心も身体も、俺のものにするから」


 悠斗は理央の耳元で低く囁く。

 理央は耳を赤く染めながら、小さく頷く。


 それから二人は、誰もいない丘の上で口づけを続けた____






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