完璧御曹司の溺愛
遠矢の部屋の窓を拭いている間、遠矢は理央に見向きもしないで、机の上でペンを動かしていた。
時折、分厚い辞書を広げて、難しそうな顔をしている。
その辞書は英語表記で、サラサラと動く遠矢のペン先もそれは見事な筆記体だった。
書く姿勢も美しく、品があり、流石に育ちの良さを感じずにはいられない。
「……すごく綺麗な字を書くんですね」
感心して呟くと、遠矢はペン先の動きを止める。
「理央ちゃんも、英語は学校で習ってるでしょ?」
「それはそうですけど、そもそも日本は日常生活から英語って訳じゃないですから。外国育ちの方は、世界が違うなって…」
「大袈裟だな。でもまぁ一応、有名な進学校なんだよ?僕の通ってる学校」
「そうなんですか?」
「世界中のお偉いさんの子息令嬢が通う学校とでも言えばいいかな?そこから、名門大学に進学する生徒が沢山いるんだ」
「やっぱり、私とは住む世界が違い過ぎます…」
「でも悠斗は、この学校の首席だよ?」
「えっ」
「この前も軽く嫌味言ってやったけど、あいつは卒業単位を余裕で取れるくらいの成績を残して帰ってきた。皆、留年しないように毎日必死に頑張ってるっていうのに…」
「そ、そうなんですか…」
「そんな悠斗に、君は愛されてる。それでも住む世界が違うって思う?」
初めて出会った時から、悠斗はいつも理央に優しく、そして、にこやかな笑顔を向けてくれる。
悠斗の育った環境も学歴も、今思えば、世界に通じるレベルなのに、悠斗に対して距離なんてものを一度も感じた事はなかった。
それくらい、悠斗はいつも理央に、ひたむきで真っ直ぐに、変わらない愛情を注いでくれている。
いつも忙しくしている悠斗をもっと支えてあげられたらって思うけれど、私に出来る事と言えば、こうして家で悠斗を待っているだけだから、少しばかり歯がゆい気持ちになるのも事実。