完璧御曹司の溺愛


「今思えば、あいつとは昔から、何で張り合っても勝てなかったなぁ…」


 遠矢は面白くなさそうに口の先を尖らせている。


「勉強もスポーツも。あいつはいつも要領がよくて飲みこみも早くて…」


「でも、悠斗には悠斗なりの葛藤があるんですよね?」


「葛藤?」


「こんなに立派な家の跡取りに生まれたから、立派なお父さんの跡を継がないといけないっていう…」


「まぁ、そうだろうね…」


「それが今までずっと嫌だったって、高校を出たら好きなように生きてやるって思ってたそうです。でも今は、それで良かったって言っていて…。なぜかは分からないけど、急にやる気が出たみたいで…」


「なるほどね。君は本当にあいつに愛されてるんだね」


「えっ…どういう事ですか?」


「まさか、自覚なし?…ふぅん、悔しいから教えない」と、遠矢は机の上で頬杖をついてニヤニヤと笑う。

        
「えぇっ、何でですか?」


「だから教えないよ?そうだ、キスと交換条件ってのはどうかな?」


「遠矢さん、いい加減にして下さい…」と、理央は呆れてため息をついた。


「ははは、分かった。ねぇ、悠斗の母親が、幼いあいつを置いて家を出たのは知ってる?」


「あ、はい、悠斗から聞きました」


「あいつは当時身体が弱くて、しょっちゅう母親に看病されてたおかげでね、母親っ子だったんだ。でも、母親が出ていった事であいつは酷く傷ついて…。もしかしたら理央ちゃんに、母親の姿を重ねてるのかもしれないね…」


「私にお母さんを?」


「だって、あいつの理央ちゃんへの執着心は凄いじゃないか?あいつは必死で誰かを愛して、そして愛されたいんじゃないのかな。理央ちゃんは、そんな悠斗の側にずっといてやって欲しい…」


 遠矢の思いがけない悠斗想いの言葉に、理央は言葉を失ってしまった。


 遠矢が「もちろんこれは、万が一、僕と君が結ばれない時には、だからね?」と一言付け加える。


「遠矢さんって、実はすごくいい方なんですね」


「えっ!あれ…?今頃知ったの?」


「はい」


「酷いなぁ。それで?僕の事、少しは見直してくれた?」


「まぁ、多少…」


「今からでも遅くはないよ?さぁ、ベッドに……!」


「お断りします!」


 理央は笑顔でそう告げて、口よりも手を動かす事に集中した。



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