完璧御曹司の溺愛


「り、理央ちゃん?どうして、ここに…?」


 この場にいるはずのない理央の姿を見つけて、動揺した様子で足を止めたのは秀和だった。


「おじさんこそ、お仕事は?」


「あぁ…、忘れ物をしてしまってね。近くを通ったものだから、ついでに取りに来たんだよ」 


 秀和は理央が手にしているファイルに目を移した。


「理央ちゃん、それを、どうして?」


「ご、ごめんなさい、おじさん。窓ふきをしようと、おじさんの書斎と知らずに入ってしまって、それで、偶然見つけたの…」


「そうか…」


 秀和は冷静だった。

「見られてしまったか…」と、ため息をつくように呟いたが、理央に退出を促す素振りも見られない。


 理央は思い切って、一番聞きたかった事を口に出した。


「おじさん、どうしておじさんが、私のお父さんの事を調べてたのか分からないけど…私は、お母さんの本当の子供じゃないの?」


「理央ちゃん…」


「私が、亡くなったお父さんの連れ子って本当の事なの?」


 秀和はゆっくりと頷く。


「そこに書いてある事は全て真実だよ。君は芳樹さんの連れ子で、涼子さんが産んだ子供じゃないんだ」
 

 それは、涼子からも知らされてなかった事実だった。


「嘘…だよね?」


 理央のファイルをもつ手が震える。

 涼子をずっと本当の母だと思い続けていた理央は、衝撃を受けた。


「残念だが嘘じゃない。私が何十年も前に探偵を雇って、芳樹さんの事を調べていたんだよ。それがそのファイルだ」


「探偵を?一体どうしてそんな事を?」


 秀和は悩まし気な顔をして、その先を話すことを少し躊躇っているようだった。 


 でも理央は、もう引き返すせなかった。

 父と自分に関する事実があるのなら知りたい。

 自分だけが、何も知らされないままなのは嫌だ。


 理央はまっすぐに秀和を見据えた。


「おじさん、私に教えて?おじさんが知ってる事を全て」


 夕日の一筋の光りが、理央の横顔を照らし出す。

 秀和は目を細めて、眩しそうに理央の姿を見つめた。


 理央の揺るぎない意志の強さを感じた秀和は、やがてゆっくり頷く。


「おじさん?」


「分かった。理央ちゃんには知る権利がある。いつかは話さないといけないと思っていたんだ。今から全て話すよ…」


 理央は緊張から、自分の喉がゴクンと鳴る音を聞いた。




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