完璧御曹司の溺愛


「今から15年以上も前、涼子さんが理央ちゃんのお父さん、芳樹さんと知り合った頃、芳樹さんは既に幼い君を連れていた。まだ1歳にも満たない小さな君だ。二人は入籍し、三人で暮らし始めたんだよ。芳樹さんがこの世を去るまでずっとね…」


 秀和は側にあった椅子に理央を座らせ、自分も傍らの小さな椅子に腰掛けると、ゆっくりと語り始めた。
  
  
「おじさんはその時からお父さんを調べていたって事でしょ?どうして?その時からお母さんが好きだったの?」


 おじさんは可笑しそうにクスリと笑った。


「いや、その時、私は涼子さんとは出会っていないよ。私も当時、結婚していたからね、もちろん悠斗の母親と」


「じゃあどうして探偵なんか雇ってお父さんを?」


「悠斗からこんな話は聞いた事はない?悠斗の母親は悠斗が幼い頃に家を出て行ってしまったと…」


『母親には忘れられない男がいたんだよ』


 理央の家で母親の話になった時、悠斗は確かにそう言っていた。

 さっきは遠矢の部屋でもその話になったばかりだ。


「いいかい、理央ちゃん。落ち着いて聞くんだ」と、秀和が真剣な顔を理央に向ける。


「悠斗の母親は、私と結婚した後もずっと想いを寄せていた相手がいた。私はその相手こそが、君のお父さんだと思ったんだ。だから、探偵を使ってわざわざ調べさせたんだよ」


「えっ…お父さんが?」


「芳樹さんと私の前妻の百合子は、実は大学時代の同級生でね、その時から百合子は彼に恋心を抱いていた。けれど、百合子の家は由緒正しい名家で、好きな相手との自由恋愛は許されなかったんだ。百合子は私と結婚した。もちろん、親同士が決めた結婚だった」


 秀和は語り続ける。


「私と結婚して、すぐに悠斗が生まれて彼女は幸せそうだったよ。結局、悠斗が7歳になる頃、私達は離婚して彼女はこの家を去ったが、実はその前にも一度、悠斗が1歳くらいの頃、彼女が家を出た時期があった。手紙を何通か寄越すだけで一年以上戻らなかったんだ。幸せそうだった彼女がなぜ?と不信に思った私は、その時に密に探偵を雇って彼女を探させたんだ。そして探偵が百合子を見つけ出した時、百合子は君のお父さん、桜井芳樹といた。彼女は君のお父さんの事がずっと、忘れられなかったんだ。そしてその時、百合子のお腹には子供がいた。それが理央ちゃん、君だ…」


「う、嘘……嘘だよ……」


 震える理央の声に、秀和はしっかり答える。


「嘘じゃないんだ。当時、彼女のお腹が大きかったと私は報告を受けている」


「そ、それじゃ、私の本当のお母さんは…?」


「君の本当のお母さんは私の前妻であり、悠斗の実の母親である百合子だ……」


 秀和の言葉に、理央は頭を殴られたような衝撃を受けた。

 足元が、音を立てガラガラと崩れ、真っ暗な闇の中に一人、落ちていくようだった。

 

「それじゃあ私、悠斗とは、血の繋がった兄妹…なの?」



 今も鮮明に脳裏に浮かぶ悠斗の優しい笑顔に、ピキピキとガラスが割れるような亀裂が入る。


「そうだ」


 秀和の低い声が響いて、


 理央の中の悠斗の笑顔は粉々に砕け散った_____







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