完璧御曹司の溺愛



 遥が去った後で、また涙が頬を伝い、理央は顔を手のひらで覆った。


「…っ」


 どんどん悠斗が遠くなる。

 私の意志とは関係なく、無情な運命が、私と悠斗を遠ざけようとしてるみたい。


 声にならない悲鳴が理央の全身から溢れてくる。


 その時、ベッドのカーテンが開かれて、顔を出したのは裕太だった。


「裕太?いつからいたの?」


「お前が来る前からここで寝てた。話し声に目が覚めた」


「じゃあ、今の聞いてた?」


「あぁ。お前ら、タイミング悪すぎ…」


 裕太は怠そうにベッドから立ち上がって腰を捻り、コキコキと音を鳴らした。


「遥があいつの婚約者を目指すって?お前も大変だな、あんな面倒くせぇライバル抱えて。んで、どうすんの?」


 いつものような他人事の軽い発言。

 理央もいつものように、軽くあしらおうとする。


「裕太には…」


「関係ないって言いたいんだろ?でも、俺、お前が好きって言ったよな?関係無いわけなくない?」


「…っ」


 裕太に真っ直ぐな視線を向けられた理央は、すぐに保健室から退出しようとした。

 けれど、昨日からの心労か、フラリと目眩を引き起こし、身体が傾く。


 その瞬間、裕太に身体を支えられていた。


「…っと、危ねえ。お前、顔真っ青じゃん」


「平気…」


「どこが?しかも目、真っ赤。もしかしてお前、泣いてんの?」


 こんなふうに裕太に自分の事を言い当てられた事がない理央は、酷く動揺してしまう。



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