完璧御曹司の溺愛
「泣いてない」と顔を背けても、すぐに「嘘つけ、泣き虫」と言われてしまった。
「裕太は知ってたの?水島さんが悠斗と婚約したがってる事…」
「知らねぇ。俺ら本当に互いを探らない、身体だけの関係だったから」
「最低だね」
「あぁ、そう思うわ。しかもそんなところをお前に見られるし」
「本当に」と、理央は小さく笑う
「なぁ、言ったろ?つりあいとれてんのか?って。そんなふうに泣くならやめとけよ。お前とあいつは似合わないって」
それに本当の兄妹だったなんて、今更誰にも言えない。
「俺にしとけ、な?」
「嫌…」と、理央はキッパリと言い切る。
「…お前な、そんなあっさりふるか?俺、これでも幼なじみで元カレなんだけど?出会って、たかだか数ヶ月のやつとは違うだろ?」
「日数じゃない。私はやっぱり悠斗が好き。悠斗じゃなきゃ駄目なの…」
今にも泣き出しそうな理央に、裕太は「理央…」と切なげに呟いた。
私に必要なのは、悠斗だけ。
実の兄妹だって聞かされても、好きな気持ちは微塵も変わっていない。
むしろ、愛しさが加速していく。
それ程までに、悠斗が好きだ。
「はぁ…」と、裕太はため息を吐き出した。
「お前って昔っからそう。か弱くて頼りなさそうに見えんのに、芯が強くて実は頑固」
いきなり性格の話をされて、理央は「裕太?」と首を捻る。
「小学校の時、俺が虐められてんの庇ってくれたのお前だったよな?今、思い出したわ」
裕太は当時を思い出すようにクツクツと苦笑する。
「あの時、俺思ったんだよ。何かあってもこいつだけは俺を信じてくれる。だからいつか、俺が守ってやろうって」
そして、真面目な顔に戻って、理央を見つめる。
「今まで散々裏切って傷つけてきて悪かった。だけど俺はやっぱり、あいつと一緒になろうとするお前が気に入らねぇ」
「やめてよ。何でいつも、そんな事言うの?」
「今のお前は、誰がどう見ても幸せそうじゃないから」
「…っ」
「俺が守りたいのは、お前の幸せなんだわ」
裕太は理央の身体をぐっと自分に引き寄せた。
「や…」と、理央は反射的に身体を固くする。
「何もしない。ベッドに連れてってやるだけだから、おとなしくしろ」
そして、ベッドまで運ばれた理央は、素直に腰かける。
「好きって気持ちだけじゃどうにもならない事もあるだろ?俺だって、お前を手に入れたかったけど駄目だった。だから、分かる。一番大切なのは、相手の幸せを考える事なんだって」
裕太はカーテンを閉めると「体調良くなるまで出てくんなよ」と言い残して保健室を出て行った。
シンと静まり返る保健室。
理央はベッドに横になったが、身体も心も休まらなかった。