完璧御曹司の溺愛
「で、悠斗との間に何があったの?」
「ほ、本当に何もないですよ。それよりも、遠矢さんとの思い出作り、付き合います」
「えっ、いいの?」
「はい。あまり過激な乗り物は無理ですけど、可能な限り頑張りますから」
理央がニコリと笑えば、遠矢は嬉しそうに理央の手をひき歩き出す。
本当は、体調はかなり優れない。
コーヒーカップに乗るのを止めようとした悠斗にも、その事は伝わっているようだった。
悠斗は今頃、心配しているだろうか?
私が勝手にいなくなった事に怒っているだろうか?
それとも、美人の彼女を隣に連れて、案外楽しんでいるとか?
だって、開園前のゲートで水島さんに見せた顔は笑顔だった。
頭痛に加えて、今度は胸がズキンと痛む。
今こうして、遠矢さんに腕を引いてもらえないと、立っているのもやっとのくらい辛い…。
強くなったと思ってた。
昔みたいに倒れる事は少なくなったし、大切な人に心配をかける事もなくなった。
でもそれは、私が単に人を遠ざけて生活していただけ。
こういう場所に来ると、自分の弱さをむざむざと痛感する。
悠斗が実の兄だという事を、素直に受け入れられないまま、ただ毎日をやり過ごすだけの自分。
何も知らない悠斗は、変わらずに私を愛してくれていて、だから私は、悠斗を遠ざけたかった。
これ以上、悠斗を好きになる事が怖かったから……
理央の手をひく遠矢の背中を見つめながら、理央の目に涙が浮かぶ。
屋上で三春ちゃんに言われた。
「お前も一度きりの人生、後悔だけは残さないようにな。好きな人と一緒に過ごせる今を、何より大切にしなさい」
なのに今、悠斗を水島さんと二人きりになんかさせて後悔だらけだよ。
だけど、悠斗と一緒に過ごすことは、今の私には何より辛い。
だから、悠斗が気付かないうちに、遠矢さんと一緒に逃げるようにその場を離れた。
こういうやり方でしか、悠斗と離れられない。
悠斗の幸せを想ってあげられない。
そんな自分が虚しかった……