完璧御曹司の溺愛
「遠矢は、性格に裏表がないから騙されやすい。でも明るくて素直でいい奴なんだ。俺は昔からあいつのそんなところに何度も救われてきた。あんな奴でも大切な俺の従兄弟だ。だから、遠矢を巻き込まないで欲しい」
「……ごめんなさい……」
「それに理央の事。俺はこの先、理央以外の誰も好きになる事はない。それだけ心から理央に惚れてる。君がどれだけ俺に近づこうとも、この気持ちだけは絶対に変わらない」
「絶対なんて、どうして言い切れるんですか?私、先輩の事本気なんです…!真剣に好きなんです!」
遥の声は掠れていた。
潤んだ目からは大粒の涙が流れて、彼女の完璧なメイクを崩す。
それでも、遥は切実に訴えるように悠斗を見つめ続けた。
「何年も先輩だけを想って来ました。それくらい先輩が好きなんです…」
「…君はそうやって人を誠実に想える人なのに、どうして理央には意地悪な事しか出来ないの?」
「誤解です、先輩!私、理科室では理央さんに意地悪を言っちゃったけど、あれからちゃんと謝罪して、仲良くしてもらってるんです!本当です!だって、今日だって理央さん、仲間に入れてくれたじゃないですか!」
「そうやって嘘を並べたら、理央より優位に立てると思った?理央から俺を奪えると思った?」
「え?」
「言っておくけど、将来俺の側にいるのは君じゃなくて理央だけ。俺と理央が結婚した時は、式くらいには招待してあげるから楽しみにしててね」
どこかで聞き覚えのあるセリフを耳にして、遥に戦慄が走る。
「ど、どうして、それ……」
「ちゃんと覚えてたんだね。この間、保健室で君が散々、理央を傷つけてた言葉」
「理央さんが先輩に言ったの?」
「まさか。理央は君と違ってそんな卑怯な事はしないよ。それより保健室は、誰が聞いててもおかしくはないって思っていたほうがいい」
「…っ」
「俺は、裏で理央を傷つけ続ける君を生涯許すつもりはないから。父親同士で君と俺が婚約なんて調子のいい話も出たみたいだけど、綺麗になかった事にしておいたよ」
「そんなのうちのパパが黙ってないです。会社同士の繋がりがあるんだから、こればかりは、先輩の気持ちだけで決められるわけが…」
「その事なんだけど、君のお父さんに、この間は酷く酒を飲まされた。俺を未成年と知りながら酒を勧めてくるような社長とこの先一緒に仕事をしたって、うまくいくはずもないでしょ?この件に関してはうちの親父も同意見だから」
「嘘…」と、口元に手を当てた遥の顔は青ざめていく。
「近々、君のお父さんとは契約を切るそうだよ」
悠斗はニッコリと遥に向かって笑みを浮かべた。
「これでもう分かってくれた?俺は君のお父さんも、世界で一番大切な理央を傷つけた君の事も大嫌いなんだよ」
そして、絶望し、今にも倒れそうな遥を席に残したまま、悠斗は伝票を手にその場を後にした。