完璧御曹司の溺愛
「でも、一つだけ…」と、悠斗は付け加えた。
「理央が途中で遠矢と一緒にいなくなったのはどうして?あの時、俺を避けてた…」
ドクンと理央の心臓が、鈍い音をたてる。
「それは…」
「それだけじゃない。ここ最近はずっと様子が変だった。理央は一体何を、一人で抱えてるの?」
ここまで心配をかけてしまった。
もう、黙ってるわけにはいかない。
だから理央は、その言葉を口にする。
「私は、もう悠斗の側にいられない…」
「……どうして?」
悠斗は動揺した素振りも見せず、冷静に理央と向き合っている。
「それは…言えない。だけど、それが悠斗の為だと思ったの」
「俺の為?」
「そうする事が悠斗の幸せになるの。だから、私は悠斗から距離をとろうと思った。悠斗にはお母さんがいないから、私以外の誰かが側にいてあげた方がいいと思って…だからっ……」
「あの子を俺の側に?それが俺の幸せ?」
理央は真っ直ぐに、コクンと頷いた。
「理央がいないならそれは俺の幸せじゃない。理央に母親の代わりをしてもらいたいなんて、一度も思った事ない」
悠斗の瞳が、鋭く理央を捉える。
それは、悠斗が理央に初めて見せる、怒りを抱えている表情だった。
「悠斗…」
「理央のいない世界で俺が幸せに生きられると思った?理央が息をしてないって知った時、俺がどんな気持ちだったか分かるの?」
そして、その表情はすぐに、悲しいものへと変わっていった。
「理央が初めて俺を好きだと言ってくれたとき、理央は俺を幸せにしたいって言ってくれた。でも俺は理央がいればそれだけで幸せだよ。理央の存在そのものが俺の幸せなんだから…」
「悠斗…」
「一人で勝手に思い悩んで、俺から離れていかないでくれ…」
悠斗は掠れたような声でそう言って、理央を抱き締めた。
いつものように優しく、そして悲しみに濡れているその腕を、理央はもう振りほどけない。
悠斗の香りに包まれて、理央の体は安らぎを感じてしまう。
ここまで悠斗を傷つけてしまった事に、深い後悔に襲われる。
遊園地でも今も、結局私は、悠斗を拒む事なんて出来ない。
それなら、これから一体どうしたらいいの?
もう、分かんないよ…
「悠斗…無理なんだよ?私達、一緒にいるの無理なんだよ…」
理央はとめどなく溢れてくる涙と一緒に、震える声で、ついにその言葉を口にした。
「私達、本当は、血の繋がった兄妹なんだって…」
これでもう、戻れない。
二度と一緒にはいられない。
いつか夢で見た、悠斗と過ごすあの幸せな日々は、二度と訪れない。
私がたった今、全て手放してしまった………
「私達が惹かれ合ったのはね、この血のせいなんだって…」
「…っ」
悠斗は顔を上げて、驚いたように目を見開いた。
「だから私は悠斗とはいられないの」