完璧御曹司の溺愛
「…っ」
理央が息を飲む気配が伝わったのか、遥と呼ばれた彼女の方がキスを止め、理央に視線を向けた。
その視線につられ、裕太も理央に顔を向ける。
浮気現場を恋人に目撃されたというのに、裕太は酷く落ち着いた様子だった。
それどころか、『何を邪魔してるんだ!』というくらいの顔で理央を睨む。
「あれって…もしかして、裕太の幼なじみの子じゃない?確か、桜井理央さん?」
悪びれる様子のない浮気相手は、ご丁寧に理央の名前まで知ってくれている。
毛先まで手入れの行き届いた、艶々ロングストレートが魅力的なスタイルの良い美人。
高校二年の同級生で、入学当初から異性に人気があるのは理央も知っている。
「理央かよ。何してんだ?こんなところで。美術室は隣だろ?」
裕太は窓枠に腰かけると、苛立ったように髪をかきあげた。
明るく染めた茶色の髪、耳にはシルバーのピアスが光る。
どちらも立派な校則違反だ。
昔は、背が小さくて泣き虫だった幼なじみ。
同じ小学校の同級生に虐められて、理央が守ってあげた事もある。
それなのに、裕太はいつからこうなってしまったんだろう。
高校に入ってからは、サボり癖も酷いと知った。
このままじゃ、この先の進路に響くかもしれない。
理央は、動揺する頭の中で、裕太と付き合う事になった時の事を思い出した。
裕太の素行の悪さが目立ってきて、心配になった理央は今まで何度か声をかけてきた。そして数ヶ月前、裕太の家まで直接行き、真剣に諭してあげた時のこと。
裕太はやっと反省した様子で「俺にはやっぱり理央が必要だ。俺と付き合って欲しい」と、切実に告白してきた。