完璧御曹司の溺愛
「こっちだよ」と言われて、理央は悠斗の背中について行く。
そうしてしばらくレストラン内を歩いて行くと、テラスへ続く入り口があった。
自動ドアが開かれると、そこは屋上庭園となっていた。
様々な観葉植物が所々にライトアップされ、まさに都会のオアシス。
ベンチやソファで人々が談笑し、ゆったりと食事やお酒を楽しんでいる。
その先に、ホテルから一部張り出されるようになっている木製のデッキがあった。
見晴らしの良さそうなそこは展望台になっていて、金属製の柵が施されてある。
「今更だけど、高いところは平気?」
悠斗が聞いてくる。
「あ、はい、大丈夫です」
理央が答えると、悠斗はニコリと頷いて「じゃあ、ついておいで」と柵へ向かって歩いていく。
遅れないよう、理央は悠斗の後を追った。
やがて、夜空しか映していなかった理央の視界の中に、徐々に、ぼんやりと、光る何かが浮かび上がっていく。
柵に手をかける悠斗の隣に並べば、そこから見えたものは、この世の物とは思えない、それは美しい夜景の絨毯だった。
一体、どれ程の光の数が混ぜ合わさったものだろうか。
闇夜の中に、沢山の宝石が燦然と散りばめられ、途切れる事を知らないそれらは、遥か彼方まで幻想的に光り輝いていた。
「うわぁ…」
理央の口から自然と、ため息に似た声がもれた。
夜にこんなに高い場所まで来た経験のない理央は、夜景を見るのは生まれて初めてだ。
胸の位置まである柵から身を乗り出す勢いで「……すごい…綺麗……」と呟かずにはいられない。
そうして理央はしばらく、その夜景に心を奪われたように立ち尽くしていたのだった_____
_____悠斗はそんな理央の横顔を黙って見つめていた。
さっきから夜景に夢中の理央は、一体いつになったら自分に振り向いてくれるのだろう?
こうやって横顔を眺めながら、理央の嬉しそうな顔を一人占めするのも悪くないけれど。
そんな想いを胸に抱きながら……。
理央がこのレストランへ母親と共にやって来るまでの間、この展望台を見つけていた悠斗は、もし今夜、理央に会えるのなら、この場所へ案内したいと密かに思っていた。
でも、今夜、理央はきっと来ないだろう___
その理由は、今日、具合を悪くした理央を保健室まで運んだ自分がよく分かっていた。
だから、このレストランで理央の姿を見つけた時、それはもう、胸が高鳴った。
互いの両親が一緒じゃなかったのなら、自己紹介も飛ばして、思いきり理央を抱きしめたいくらいに…………