完璧御曹司の溺愛
ところが、リビングに入ると、既にスーツケースを市川に預けた父、秀和がいた。
もちろん今日の秀和は、仕事用のかしこまったスーツではなく、私服姿。
「お、来た来た!悠斗は?支度はまだなのか?」
「それが、悠斗君、熱を出して寝込んでいるのよ」
涼子の言葉を聞いた秀和は、意外そうに首をひねる。
「熱?あいつが?あいつが熱を出すのは、子供の時以来だな…」
「秀和さん、感心している場合じゃないのよ?まったくもう、一人息子なのに…。あの子はしっかりしているけれど、まだ学生なんだから」
「うーん、最近は仕事を詰め込みすぎたかなぁ。今日の休みをとらせる為に、少し無茶させたかもしれん…」
「キャンセル料がかかっちゃうけれど、仕方がないわね。今日の旅行は中止にするわ」
そのセリフを聞いて、市川がすかさず口を開く。
「では、そのように、旅館に連絡致しましょうか?」
「えぇ、お願いします。そう言えば市川さん、今日に合わせてお休みをとられたのでしょう?確か、故郷に帰省されるとか…。私達の事は気にしないで行って来て下さい」
「奥様のお心遣いは感謝致しますが、皆様残られるのに私だけ出かける訳には参りません。私も本日の予定はキャンセルに…」
「いや、その必要はない。旅行はキャンセルしない」
秀和が皆の前に進み出て、言い切るように言った。
「何ヶ月も前から予定を調整して、今日に合わせて休暇をとったんだよ?次にまとめて休みをとれるのは、一体いつになるかどうか…」
「でも、悠斗君が…」
「あいつは幼い子供じゃないんだ。一日や二日ほっておいても死にやしない。そんな腑抜けな男に育てた覚えはないしな」
「それに…」と、秀和は付け加える。