完璧御曹司の溺愛
恋に落ちた日 悠斗story
俺が理央を初めて見たのは、2週間程前だった。
思えばあれは、一目惚れに近かったと思う。
放課後の美術室。
俺の視線の先には、花瓶に生けた花をデッサンする理央の、その真剣な横顔があった。
よほど集中力を高めているんだろう。
理央は、今日やって来たばかりの新入部員が自分を見ている事など気づきもしなかった…。
この学校へ転入して一ヶ月。
俺は最初から、どの部活にも入部するつもりはなかった。
けれど、同級生や後輩からの強引な勧誘を断るため、比較的緩い活動をしている美術部への入部を決めた。
もちろん幽霊部員になるつもりだったが、一度くらいは顔を出しておかねばと思いたち、やって来たのがこの日。
そして、そこに理央の姿を見つけた。
一目で、父親の再婚相手の子供だと分かった。
最近、顔が緩みっぱなしの父親が、相手の親子なのだと、俺に写真を見せつけてきた事があったからだ。
『理央っていう子だ。お前が通う高校の二年生だと聞いている。こんなに可愛い妹が出来て良かったな』
『………』
元々、父親の再婚など、これっぽちも興味がなかった俺は、この時は適当にあしらったのだが…。
目立たないよう、教室の隅の方に座った俺は、義理の妹をそっとうかがう。
しばらく真剣に鉛筆を動かしていたはずの理央は、急にフッとその表情を緩めた。
椅子から立ち上がり花瓶の花に近寄ったかと思うと、あーでもないこーでもないと、何やら難しい顔で思案している。
なかなか、納得のいく角度が見つからないのだろうか。
そう思っていると、自分が途中まで描いていた紙を丸めて、ポイッと床に捨ててしまった。
そして、突き出した唇の上に鉛筆を乗せ、いじけたように顔を歪ませる。
その一連の動作を目にした俺は、喉から笑いがこみ上げてくるのを、手の甲で口元を抑えながら必死に堪えていた。
「…っ」
駄目だ。
声を出しては、彼女に気づかれてしまう…!
そのうち、「そうか!」と、何か閃いたらしい彼女は、パッと花が咲くような笑みを作った。
花瓶の角度を調整したり、花びらの形を整えたり、自分が納得いくまで丁寧に、作り変えていく。
そして満足そうな顔で、元いた位置に腰掛け、新しい紙を取り出し、再び真剣な顔で鉛筆を動かし始めた。
俺は、そんな理央の姿に、胸がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
今すぐ駆け寄って、抱き締めたくなるような衝動に駆られる。
かわいい…
かわいすぎる…!
写真では分からなかった、たった一輪の花で変わる、理央の感受性豊かな愛くるしい一面。
気づけば俺は、たった一日で、理央の虜になってしまった。