完璧御曹司の溺愛



 そして今日、学校で予期せぬ出来事が起こった_____




『やめろって。幼なじみ以下だし、こんな奴』


 驚きの言葉を吐いたのは、理央の彼氏だった。


 恋人の浮気現場に遭遇してしまった理央は、彼らの前で、目を伏せて泣いていた。


 美術室で盗み見の次には、理科室で盗み聞きをするはめになってしまった事など、この際どうでも良かった俺は、いても立ってもいられずに、あの場に飛び出していた。


 


『…鏡なんか見なくても、理央は十分かわいいよ…』


 美術室で理央に出会ってからというもの、色んな表情を浮かべる愛らしい理央に惹かれた。
  

 それはどれも、自分に向けられているわけじゃないと分かっていても、見ているだけで幸せな気持ちになれた。


 だけど今夜、理央は俺と初めて顔を合わせ、俺を兄だと認識するのだろう。


 だから、自分のこの気持ちは、理央にとって迷惑でしかなくなる。


 今日の美術室を最後に、この想いを潔く断ち切るつもりでいた。


 理央には何事もなかったように、明日も明後日もずっと、大好きな絵だけを描いていて欲しいから_____


 真剣に、難しそうに、楽しそうに、嬉しそうに、どんな表情の理央でもいい。

  
 だけど、今、こんなふうに泣いているのだけは駄目だ。


 深く傷つき、身体を震わせている理央を見て、何事もなかったようにやり過ごす事なんて、俺には出来なかった。


 大切な理央を、この手で守りたかった。
  

 そして何より、ずっと鍵をかけて閉じ込めていたこの気持ちを、解放したくてたまらなかった。


 そんな男なんかやめて、俺を選べばいい____


 心の中で止めていたはずの想いが、堰を切ったように溢れてくる____


 


『理央、俺は理央が好きだよ……』


 保健室で、理央の小さな手を握った____


 目覚めた時、理央は、今会った俺を忘れているかしれない。


 俺の気持ちを、信じてくれないかもしれない。


 兄に言い寄られた事に、引かれるかもしれない。


 でも、もう、この気持ちに微塵も嘘をつける気がしなかった。



 理央が俺を避けるのなら、俺は何度でも理央を振り向かせてみせるから_____






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