完璧御曹司の溺愛
輝く夜の夢
しばらく夜景に見とれていた理央は、悠斗の視線にふと気付く。
柵に肘をかけ、頬杖つきながら理央を見つめていた悠斗は、理央と目が合うとニッコリと微笑んだ。
あっ…
まさか、見られていたとは思わず、理央はとっさにうつむいてしまう。
隣の悠斗が、身じろぎしたように感じた瞬間、肩にフワリと何かがかけられた事に気が付いた。
それは、悠斗が着ていたスーツの上着だった。
理央の身体をスッポリと覆うそれは、かなり質の良いものなのだろう。
薄手で軽く、そして温かい。
しかも、悠斗の温もりと爽やかな香りつきだ。
今日、理科室で、後ろから抱きしめられた時と同じ香りだということに気がついて、理央の心はさらに動揺してしまう。
「あ、あのっ、これ…」
慌ててスーツに触れると「いいんだよ、理央が着て。5月でも夜はまだ寒いから」と、悠斗は言った。
「でも、瀬戸先輩が風邪をひいてしまいます」
スーツベスト姿の悠斗は「俺はこれで調度いいよ」と理央を安心させるように微笑んだ。
「それに理央が風邪をひくと俺が困るから。ちゃんと羽織ってて欲しいな?」
「…あ、ありがとうございます」
「うん」
悠斗はニコニコとその表情を緩めない。
何だかすごく楽しそうと、理央は思った。
さっき、4人で食事をしていた時よりもずっとだ…。
でも、次の瞬間、その顔は少しだけ曇ってしまった。
「体調は?あれからもう大丈夫なの?」
今日、倒れた時の事を心配してくれているのだろう。
保健室まで運んでくれた時のお礼を、まだ言えてない事に気がつく。
「はい、もう大丈夫です。あのっ、ありがとうございました。今日、保健室へ連れて来てくれたのが先輩だって聞きました」
「ごめんね、倒れさせてしまって…」と、悠斗は謝る。
どうして…?
私が目眩を発症したのは、先輩のせいなんかじゃないのに。
それどころか、先輩が私に優しくしてくれなかったら、私は今、ここに立てていなかったかも知れないのに…。
それなのに、悠斗は整った眉を下げて、もう一度「ごめん…」と謝る。
理央は首をブンブンと横に振った。
「私が倒れたのは先輩のせいじゃありません!それどころか助けてもらったくらいなのに…。私の方こそ、お見苦しいところをお見せしてしまって、本当にすいませんでした…」
思えば、なんて情けないところを見られたのだろうか。
彼氏と浮気相手に散々罵られ、何かを言い返す事も出来ず、私はそのまま保健室行き……。
うぅ…恥さらしにも程がある………。
本当に、自分は駄目なんだからと、泣きたくなってしまう……。