完璧御曹司の溺愛


  
 夜の風が、二人の間を吹き抜けていった。


 悠斗の言った通り、5月の夜は肌寒い。


 悠斗がスーツを貸してくれなければ、ワンピースの理央は、きっと寒い思いをしただろう。


 まるで悠斗が守ってくれているみたいで、理央は少し嬉しくなる。




「あ、あの、せんぱ………、ゆ、悠斗、聞いてもいい?」


「ん、何?」


「いつから悠斗は、私を知ってたの?」


 親父に写真を見せられたから、と言ってしまえばそれまでだと悠斗は思ったが、理央に本気になったのは美術室の理央を知ってからだ。


「実を言うと美術室で、俺は理央を見てたんだよ」


「えっ!美術室にいたの!?一体いつ!?」


 驚きに目を丸くする理央に、悠斗はクスリと笑ってしまった。


 こういう表情の一つ一つも、可愛くて仕方がない。


「2週間くらい前からずっといたよ」


「え、えっ!」


 理央は美術室で過ごした最近の事を、必死に思い出そうとしているようだった。


 でも、無理だろう。


 理央はずっと、絵を描くのに夢中だったんだから…。


「ごめんなさい、私、全然知らなくて」


「いや、おかげで、俺は有意義に過ごせたよ」


「……有意義に?」


「うん。花瓶の花と絵を見つめながら、表情がクルクル変わる理央が、可愛くて仕方なかった」


 ポンッと頬を赤く染めた理央。


 『うん、やっぱり可愛いな』と、悠斗は思わずにいられない。


「でも、盗み見をするようなはめになってしまった」

 


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