完璧御曹司の溺愛
「何なの!?あの態度!やっぱムカつく!」と、咲は理央の隣でプリプリと怒る。
「瀬戸先輩の爪の垢を煎じて、一気飲みさせてやりたい!」と、裕太の背中を睨みつける。
そう言えば…と、理央は辺りを見まわした。
この学校のどこかに、悠斗はいるはずなんだよね。
なんだか、同じ学校っていう実感がいまいちわかない。
理央の中で悠斗は、日本の学校よりも海外の学校にいるイメージがの方が強かった。
昨日の食事で、悠斗の事を聞いたけど、悠斗は幼い頃からおじさんの仕事の関係で外国で暮らす事が多かったみたい。
実際、この学校に転入する前は、イギリスの名門校に在籍していたらしいし…。
「なぁに?旦那の姿探してるの?」
「だ、旦那!?」
「あ、ごめーん、お兄様、だったわね?」
咲は口に手を当て、笑いながらからかってくる。
「裕太の言い方は気に入らないけど、本当に理央の未来の旦那さんは先輩だったりして?」
「そ、そんな訳ないよ。悠斗とはこれから兄妹になるんだよ?」
「そうやって、さっそく呼び捨てにしちゃってるところなんか、特にねぇ…」
「そんなの裕太だってそうだよ?」
「あいつとは、そもそもの出会いが子供の時じゃない?異性としての意識なんて何もしてなかった頃でしょ?」
「そうだけど…」
「瀬戸先輩は保健室で、理央の事を心配してずっと手を握ってくれてたみたいだし、意識し出すのなら先輩の方じゃない?あっ、もしかして、もう好きになっちゃったとか?」
「ち、違うよ。咲ちゃんったら、からかわないで!」
「じゃあ、理央がさっきから探してるのは誰?」
「そ、それは…」
「認めなよ。先輩が気になってるって」
理央は正直に、今の気持ちを口にする
「ほ、本当に、悠斗はこの学校にいるのかなぁって思ってただけ」
「本当にそれだけ?」
「それだけだよ。私、今までずっと美術室にこもってて、悠斗の存在、全然知らなかったから、まだ半信半疑なの」
「フフフ、そんな理央に先輩情報!先輩はお昼は必ず食堂にいます!」
「食堂?」
「うん、だから食堂に行けばね、先輩に会えるよ」
「そうなんだ…」
「もう、常識だよぉ?目の保養で行ってる子、結構いるんだから」
食事中も目の保養にされちゃうんだ。
気が休まらなくて悠斗も大変だろう…。
そう言えば、自分も昨日は、食事中の悠斗を何度も見てしまった事を思い出した。
何度もジッと見られて嫌な気になりそうなものなのに、理央に対し、嬉しそうに口角をあげる悠斗の顔しか浮かばない。
何だかもう一度、その顔を見てみたくなる____
「もちろん、今日行くよね?」
「うん…。じゃあ、行こっかな」
「決まり。お昼、先輩に会いに行こ?」
「咲ちゃんも、一緒に行ってくれるの?」
「うん。私も見たいもん」
「咲ちゃんも悠斗が気になるの?」
「あ、勘違いしないで?私も一応、先輩が好きでファンクラブに入ってるけど、別に恋人になりたいわけじゃないから」
「そうなの?」
「そうそう!先輩を彼氏にしたくて躍起になってる子、まずは友達からと頑張ってる子、先輩を遠巻きで見てるだけで満足な子。ファンクラブにも色んな人がいるからねぇ。あ、ちなみに私の見たいっていうのは、私だけが知っている、あんたと先輩の『兄妹の壁』っていうのを見てみたい。なんだか、すごーく美味しそうだし!」
「お、美味しそう?って、一体何が?」
「いいの、いいの、今のは聞かなかった事にして?」
いまいち、咲ちゃんの考える事は分からないと、理央は首を捻る。
察しのいい咲は、三春から、悠斗が保健室で理央の手を握っていたと聞いた時から、悠斗の気持ちに気付いていた。
『あぁ!学校一の王子様は、これからこの超無自覚なお姫様に、一体どんなアプローチをかけるんだろう?すっごく楽しみ!しかも何?兄妹の壁とか、すっごく燃えるんですけど!!先輩!理央相手じゃ一筋縄ではいかないと思いますけど、私は先輩の味方ですから!頑張って下さいっ!!』
咲は心の中で悠斗に熱いエールを送りながら、瞳の色を輝かせた。