完璧御曹司の溺愛



「あの、すいません。今日って瀬戸先輩は来てないんですか?」


「え、悠斗?」


 反応した女子生徒の一人が悠斗と言った事に理央は驚いた。


 まさか自分と同じ、悠斗を呼び捨てにしている人がいるとは思わなかったからだ。


 でも、なぜ思わなかったのだろう?


 悠斗と親しくしている同級生がいたって、それが女性だって、全然不思議な事じゃない。

 
 それなのになぜ一瞬、胸がチクリと痛くなったのか………



「悠斗は来てないよ」


「やっぱり。今日は食堂に来てないんですね」


「食堂じゃなくて学校。今日から休んでる」


 や、休み?


 期待に膨らんでいた胸に針が刺さり、そのままシュンと萎んでいくような感覚。
 
 
 何、コレ…

 さっきから、自分の胸がおかしい___


 悠斗は、もしかして風邪をひいてしまったのかもしれない。

 昨夜、私にスーツの上着を貸したりしたから。



「今日からって事は、しばらく休むんですか?」


「うん。そうらしいよ。急な親の都合で海外に行くってうちの担任が言ってた。あ~、悠斗いないとつまんないよね…」


「海、外…?」


 理央は全身から、崩れて行きそうになった。


 全然、知らなかった……。


 だって、昨日はあんなに近くにいたのに、いきなり海外だなんて……。



『それじゃあ、またね理央』


 別れ際、タクシーに乗り込んだ理央に、悠斗は笑ってそう言った。


 またすぐ、会えそうに別れたのに……。

 もしかして、悠斗はそのまま海外に帰ってしまうの?



 悠斗にもう、会えないの____?



 頭がグニャリと歪むような感覚。


 これは、目眩に襲われる時の前兆だった。


 理央は、これはいけないと、気持ちの切り替えに努めようとするけれど……




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