完璧御曹司の溺愛
「し、しばらくっていつまでなんですか!?」
理央はついに、自分の口から聞いてしまっていた。
女子グループの全員に、そこまで聞くか?って怪訝な顔で見られけど、理央は全然気にならなかった。
「さ、さぁ…。いつまでかは、うちらも分かんないけど…」
彼女達は、悠斗のクラスメイト。
これ以上の事は担任でもない限り、知らない情報だろう。
彼女達に礼を言って、理央は隅の方の空いている椅子に腰かけた。
周りの騒音をどこか遠くに感じて、キーンと酷く、耳が鳴っている事に、今になって気が付いた。
今まで理央はストレスを避ける為、学校では人気のない場所で、なるべく静かに過ごすように心がけていた。
人の少ない美術部を選んだのも、今まで、賑やかな食堂に顔を出さなかったのもその為だ。
咲が水の入った紙コップを、理央の前に差し出してくれる。
「理央、大丈夫?三春ちゃんとこ行く?」
「ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
理央は咲に心配をかけないように笑顔を浮かべ、紙コップに口を付ける。
でも、心の中は、自分でも驚く程、取り乱していた。
「どうして?」と、答えのない質問を自分の中で繰り返す。
どうして昨夜、悠斗は何も言ってくれなかったの?
急に決まった事なの?
それにしたって、婚約者の母親に連絡くらいは入るだろう。
それじゃあ、知らされてないのは私だけ?
今は落ち着かないといけないのに、考えずにはいられなかった。
「理央、顔色悪い。やっぱり三春ちゃんのところで休もう?」
目の前で、咲が心配そうな表情を浮かべている。
「ね?そうしよう?」
「…うん。じゃあ、そうする」
咲ちゃんにまた、心配をかけてしまった……。
「ごめんね、理央。私が、会いに行こうなんて言ったから…」
「咲ちゃんのせいじゃないよ。だから気にしないで?本当に私、こんなはずじゃなかったの…」
こんなに、気持ちが乱れるはずがなかった。
だって今朝は、悠斗は日本より、外国にいるイメージが強いって自分で思っていたはずだ。
この学校にいる実感なんて、全然わいていなかったのに。
それなのに、実際近くにいないって分かっただけで、どうしてこんなに不安で、苦しくて、胸が締め付けられるように痛むのか……。
答えが出ないまま、理央は力なく席を立った____