完璧御曹司の溺愛
記憶
二人で一緒に、校門を出た。
理央の家まで送ると言ってくれた悠斗。
でも理央は、悠斗とはここで別れるつもりだった。
もちろん、アメリカから飛んで帰ってきてくれたというのに、すぐにまた離れてしまうのは寂しい。
もっと悠斗と一緒にいたいと思う。
でも……
「悠斗、ここまででいいよ」と、理央は悠斗にそう告げた。
足を止めた理央に、悠斗は驚いたような顔を向けてくる。
「どうして?」
「だって悠斗には、悠斗の迎えの車が待っているでしょ?」
しばらくの沈黙の後、理央の言葉の意味を理解した悠斗は、クスクスと笑いながら言った。
「そんな事を考えて遠慮したの?てっきり理央は、俺と帰りたくないのかと…」
「そ、そんな事ないよ。ただ、私と悠斗は違うから…」
すると悠斗は「見て?」と、校門の前の通りを指さして、理央に見るように促してくる。
道路には数台の車が行き来するだけで、お金持ちの御曹司を、大層な高級車とその運転手が門の前で待っているという、少女漫画にありがちな光景は見られなかった。
「俺は、行きも帰りも電車通学だよ」
「え…、そうだったの?だって悠斗は、立派なお家の跡取りなのに?」
悠斗の家は、理央のような一般庶民の家とは違う。
世界中に名が知れ渡っている由緒ある名家。
そして悠斗は、莫大な財産と富を有する大企業のトップ、瀬戸秀和の一人息子だ。
「俺は、そういう肩書きが嫌いなんだ」
「えっ」
悠斗は、悲しそうに笑みを浮かべる。
「昔から、俺をそういう目でしか見ない人が多かったから、その重圧が息苦しくて。せめて、学生の間は普通の生徒と変わらない生活を送りたい」
「だから学校にも、家の事情は伏せてもらえるように頼んであるんだよ」と教えてくれる。
「そ、そうだったの…」
確かに、悠斗は学校で生徒から大人気だけれど、家がお金持ちで裕福とか、どこかの会社の跡取りとか、そういう類の話は咲からも聞いていない。
「それは、俺があの家が嫌いで、ただ逃げてるだけなのかも知れないけどね…」