完璧御曹司の溺愛
そして、悠斗がそんなふうに言えるのは、悠斗自身も、自分の家族に対して感謝の気持ちを忘れていないからなのかもしれないと思う。
そういえば、悠斗も片親だ。
悠斗の母親の話をいつか聞いてみたいと、ふと思った。
悠斗は、自分の母親をよく覚えているのだろうか。
「理央、冷えてきたし、そろそろ家の中に入った方が良さそうだね」
「あ、うん…。そうだね」
「それじゃあ、俺は行くね」
「悠斗、送ってくれてありがとう」
「うん。また、学校でね」
悠斗はふと、理央に距離をつめてきた。
別れ際に抱きしめられるか、名残惜しそうに髪に触れられるかと思った。
でも悠斗は、少し切なそうに微笑んで、そのまま身を翻す。
何も言わないその背中に、理央は急に不安を覚えた。
明日はまた、アメリカに戻ってしまうような……
そしてもう、このまま、悠斗とは会えないような……
駅に向かう為、再び元来た道を歩き出す悠斗。
自分から一歩一歩離れていく悠斗の、その心までもが一緒に離れていくみたいに見えて理央は焦る。
その時、自分がまだ何も伝えていない事に気が付いた___
「悠斗!」
理央は悠斗に駆け寄ると、その腕を掴んだ。
悠斗は驚いたように振り返る。
腕を掴んだまま、うつむいているだけの理央に、悠斗が優しく声をかける。
「どうしたの?」
「あ、あのねっ、私、実は悠斗に話したい事が……」
理央が顔を上げ、意気込んで言ったその時、背後から「理央?」と声がかけられた。
その声の主に振り返ると、買い物袋を腕からぶら下げた涼子の姿があった。
「お、お母さん!」