完璧御曹司の溺愛
「そうなんだ」
「うん。だから理央は凄いね。このカレー本当に美味しいし、理央は将来、いい奥さんになれるね」
凄いのは、悠斗だ。
どこをとっても、誰が見ても完璧な悠斗は、理央にないものを沢山持っている。
悠斗こそ、将来が有望な魅力的な男性で、この先も、女性からの人気が途絶える事は絶対にないだろう…。
そんな人に、いい奥さんになれるなんて言われて、理央の身体はジンと熱を持つ。
「悠斗、褒めすぎだよ」
「そんな事ないよ。俺は本心から言ってるだけ。ねぇ、理央?一緒に住む事になったら、また作ってもらいたい。作ってくれる?」
「う、うん、もちろん」
理央の返事を聞いて、悠斗は嬉しそうに再びスプーンを動かす。
母親に献立をリクエストする子供みたいな悠斗が可愛くて、理央は嬉しくなってしまう。
「そういえば、悠斗の本当のお母さんって、どんな人だったの?」
和やかな雰囲気に乗じて、理央は口に出した。
「優しい人だったかな」
「へぇ、悠斗みたいだね。悠斗はお母さんの事、よく知ってるの?」
そこまで言ってふと、隣に座る涼子が、理央の発言を止めさせるように「理央」と、名を強く呼んだけれど、悠斗はどうって事ないって表情で、理央の質問に答えた。
「うん、まぁ。記憶に少し残ってるくらいかな。母親が家を出たのは、俺がちょうど小学校に上がる頃だったから…」
目の前の悠斗は、いつもと変わらない穏やかな顔。
「えっ、どうして家を出たの?」
そんな小さな子を置いて家を出るなんて…。
よく考えれば、答えなんて限られているのに、父とは死に別れている理央にはよく分からなかった。
「母親にはね、ずっと、忘れられない男の人がいたんだよ?」と、悠斗は優しく、理央に教えてくれる。
「そ、そんなっ…」
理央に衝撃が走る。
お互いに片親だけど、理央と悠斗は置かれている境遇が全然違った。
理央の父は、理央が物心つく前に病気で亡くなってしまった。
だから、理央には父と過ごした思い出はない。
だけど、悠斗は違う。
優しい母親の面影をその記憶に残している。
その母親はある日、自分を残して、知らない男の人のところへ行ってしまった。
それは、どんなに辛い事だろう___
「理央、そんな顔をしないで?」
それなのに悠斗は、この話を聞いた理央に向けて、悲しい顔をする。
「何年も昔の事だし、もう何とも思わないんだ」
「ごめんなさい、悠斗君。ちゃんと理央に話しておくべきだったわ」と、涼子は眉を下げる。
「いえ、構いません。俺も父も、この件に関しては完全に吹っ切れていますから。涼子さんの方にしたら気持ちのいい話じゃないのに、俺の方こそすいません…」
何も知らない理央が、勝手に聞き出した事なのに、悠斗は涼子に謝罪するようにペコリと頭を下げた。
「ごめん。悠斗」と、理央は謝る。
「いいんだよ、理央。気にしないで?」と、悠斗は相変わらず優しい眼差しを向けてくれる。
「それより、理央のカレー、おかわりしていいかな?」
理央は「…うん」と頷いて、悠斗の皿を受け取った。
おじさんは男だし社長だから、仕事が多忙だったはず。
母親の愛情に些細な記憶を残している悠斗は、私よりも淋しい幼少期を送ってきたに違いない。
その存在を知っているからこそ、残された時の悲しみ。
それは、理央が考えるどんな孤独よりも上回っているような気がして、理央の胸はギュッと掴まれたように苦しくなった。