完璧御曹司の溺愛

告白



 理央は、いつも以上に食事が喉を通らなかった。


食後、「後片付けは私がやるから、理央は悠斗君といてあげてね」と涼子に言われている。


 悠斗は、悠斗の家の人が迎えにくる事になっていた。




「悠斗、お茶いれたよ」


「ありがとう」


 リビングのソファに腰をおろした悠斗は、理央からお茶を受け取る。


 理央も、悠斗の隣に腰をおろした。


「理央、あんまり食べてなかったね」


「え、そんな事ないよ」と、言ってみせるも、理央の空元気は悠斗にはお見通しだった。


「俺の母親の事なら、本当に気にしなくていいからね。俺は恨んでるわけでも、悲しんでるわけでもないから」


 私だったら耐えられない。


 幼少期、甘えたい盛りのその時期に、母親が出て行ってしまうなんて。

  
 何年たっても、母は母で子供は子供だ。


 悠斗は気にしてないって言うけれど、当時は深く傷ついたはずだし、今だってその傷は心の奥に残っているかも知れない。


 私が電話で、自分の母親を祝福したいから悠斗の気持ちに応えられないと言ったあの時、もしかしたら悠斗に本当の母親を思い出させて、また傷つけてしまっていたのかも知れない。

 
 理央はあの時、涼子も秀和も悠斗も同じくらい大切だと思っていた。


 新しい家族の絆を結ぶ方が大切だと考えていた。


 でも今は、悠斗に対して家族とは違う、新しい特別な感情が芽生えている。



 照れくさくて簡単には伝えられないのに、次から次へと溢れてくる、人を心から愛しいと思う、素直で優しい気持ち。

 その人と一緒にいるとドキドキして胸がぎゅっと苦しくなるのに、身体中が幸福で満たされていく、温かくて不思議な気持ち。

 その人を手放せないし、誰にも譲れない。そして、その人だけに愛されたいと思う、身勝手で強欲な気持ち。


 これが、恋をするという事。

 その相手が悠斗なら、何の不満も迷いもない。


 今なら、勇気を振り絞って伝えられるような気がした。





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