完璧御曹司の溺愛
夢と現実
「ん…」
深い意識の底から、理央は目をさました。
「あ…れ…」
ここって、保健室…。
入学してから何度もお世話になっている、理央の馴染みの場所。
寝かされていたベッドからゆっくりと半身を起こす。
頭はまだ重いが、頭痛は我慢出来る範囲だ。視界も良好で、歪みもない。
「そっか。私、倒れたんだね…」
誰にでもなく、ポツリと呟く。
すると突然、カーテンの向こうで保健室のドアが勢いよく開かれた。
ツカツカツカと大きな足音が迫ってくると思ったら、目の前のカーテンがシャアッと開かれる。
息を切らしてそこに立っていたのは、数少ない理央の親友である高野咲だった。
「あ、咲ちゃん…」
理央は咲が現れるとは予想してなかった。
だって今は放課後で、咲は部活中のはずだ。
すると、バスケのジャージ姿の咲は、大きな声で怒ったように言った。
「あ、咲ちゃん…じゃないよ!人の気も知らないで。理央が倒れたって三春ちゃんに聞いて、慌てて来たんだからねっ!」
三春ちゃんとは、この保健室の先生の事だ。
三春紗栄子、29歳独身。
先程から、姿が見えないみたいだが…。
辺りをキョロキョロ見渡していると、咲にガシリと肩を掴まれて「目眩で倒れたの?」と不安そうに瞳を覗かれた。
「うん、そうみたい」と、頷くと「どうしたの?最近は体調良かったじゃない?」と、更に不安な顔をされてしまった。
理央は生まれつき、三半規管が弱く、ストレスを強く感じると目眩を引き起こしてしまう。
大抵は少し休むだけで治まるが、精神的なストレスや不安が過度にかかりすぎると、今回のように意識を失ってしまう事もある。
中学生になる頃には自分の感情をある程度コントロールできるようになった。
あまりストレスを感じないよう気持ちを切り替える事がうまくなり、人前で突然倒れ、救急車で運ばれるような事はなくなった。
でも、幼い頃はそれが出来ずに悪化して、よく入院したな…と思い返す。
その頃も、咲ちゃんはこんなふうに隣にいて、一生懸命、心配してくれてたよね。
何も変わってない事が嬉しくて、理央の口元は自然と綻んだ。
自分の心配をよそに呑気に笑う理央を見て、咲は目くじらを立てた。
「もう!何笑ってるのよ!私、心配してるんだからね!」
ここまで、息を切らして走ってきた咲に、理央はさすがに悪いと思い、「ごめんね、大丈夫だよ」と言葉を返した。