あなたを忘れて生きていた
 街道を行けば関所に止められるため、迂回をして森を抜ける道を通ることにした。だが、そこは細い道で、馬車は通れない。彼らは仕方なく馬車を降りて歩いた。

 彼らが町を出て5日。村を出てから17日。まず、隣町に彼らはたどり着いた。

 そこには領主が派遣をした兵士が大量にいて、何かを燃やしていた。だが、フィリアたちは自分たちの村が心配だったので、隣町で何が起きているのかをはっきりとは確認せず――そもそも確認をしたら彼らは返されてしまう可能性もあるからだ――村へとひたすら向かった。

 そして。

「おい! そっちの遺体も早くもって来い!」

「早く焼かないと、うつってしまうぞ!」

 まるで野焼きのような炎が村の外れであがっていた。大きな大きな炎。そこに、兵士や村人が集まっていく。見れば、村人は兵士に命令をされているようだった。誰もかれも、暗い表情で動いている。

 フィリアと共に戻った女性が、よろよろと木々の間から姿を見せれば、働いている1人の男性が彼女に気付いた。

「ああ、ノイラ! お前、無事だったのか……」

「一体どうしたんだい……ねぇ、うちの人は? あんたといつも一緒にいる、うちの人はどこだい?」

「あんたの家族は、死んじまったよ、ノイラ……みんな、バタバタと死んじまったんだよ!」

 何を言っているんだ、とその女性は呆然と立ち尽くす。そんな彼女のことを見向きもせず、兵士は「早く運べ!」と怒声をあげた。

 フィリアは、ごうごうと燃えている大きな炎の前にいる、数人の村人の元へと走っていった。彼らは何か大きいものを2人がかりで炎の中に投げ入れていた。いや、中には小さいものもあったけれど……。

 フィリアは、彼らが炎に投げ入れた「何か」を見て叫んだ。

「あ、あ……やだあああああ! やだ! やだ! お母さん! お母さん!」

「フィリア!? 」

 フィリアの目の前で、炎の中に投げ入れられたもの。それは、彼女の……。

「やだあああああ!」

 その「何か」を救おうと、ごうごうと燃えた炎に近づくフィリアを、大人たちは必死になって止めた。
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