あなたを忘れて生きていた
「お母さん! お母さん!」
「フィリア、駄目だ、お前が燃えちまうよ!」
「やだああああ! 離してっ……」
そして、次に炎に投げ入れられるものは。
「いやあああああ! お父さん! お父さん、やだ! やめて、やめてやめてえええええ!」
彼女の家族の遺体が、次々と炎の中に消えていく。フィリアは泣き喚き、人々の腕に噛みついて炎の中からそれらを引き戻そうとする。だが、それを今度は兵士が阻んだ。
「おい! この子供をどこかに連れて行け!」
「いやだあああああああ!」
暴れて、暴れて。フィリアの瞳は炎の中を見つめ続けて。瞳が焼かれそうな熱さをものともせずに、彼女はそのまま再び炎の中に身を投じようとする。それを、兵士が押え、村人たちの方へと、再びフィリアの体を押しやった。
彼女の両腕を左右に1人ずつの村人が掴み、必死に炎から引きはがす。フィリアはずるずると連れ去られながら、自分の家族の遺体が燃える様子を、瞬きもせずにずっと見つめていた。
そして。
そのまま呆然となったフィリアは、たった1人になった家で眠り、翌日目覚めると、彼女は脱け殻のように物を話さなくなっていた。膝を抱えて部屋の隅で丸まって、彼女は朝から晩までその場を動かなかった。
彼女を心配した村人は、以前彼女の両親が話していたんだけど……と、遠い親戚のことを彼女に教える。フィリアはよくわからないながらも「そこに行けばいいの?」とふらりと立ち上がった。まるで、炎の前で見せた激情などないように、いや、家族なんて最初からいなかったかのように、彼女は淡々と振舞い、人々を心配させた。
それからのフィリアは、誰にも何も聞かず、旅支度を整え、誰にも何も言わずに村から出て行った。彼女は、ごとごとと揺れる馬車の幌で眠り、心を殺して日々を過ごすうちに気付けば自分の心を守るため、過去を忘れていった。
村にいたことも。家族がいたことも。そして、あの村の傍にあったアルベルトの別荘のことも、アルベルトのことも。すべて、あの村に紐づいている記憶を、彼女はしまい込んで蓋をした。そうするしかなかったのだ。それは幼かった彼女が生きるために無意識に選んだことだった。
「フィリア、駄目だ、お前が燃えちまうよ!」
「やだああああ! 離してっ……」
そして、次に炎に投げ入れられるものは。
「いやあああああ! お父さん! お父さん、やだ! やめて、やめてやめてえええええ!」
彼女の家族の遺体が、次々と炎の中に消えていく。フィリアは泣き喚き、人々の腕に噛みついて炎の中からそれらを引き戻そうとする。だが、それを今度は兵士が阻んだ。
「おい! この子供をどこかに連れて行け!」
「いやだあああああああ!」
暴れて、暴れて。フィリアの瞳は炎の中を見つめ続けて。瞳が焼かれそうな熱さをものともせずに、彼女はそのまま再び炎の中に身を投じようとする。それを、兵士が押え、村人たちの方へと、再びフィリアの体を押しやった。
彼女の両腕を左右に1人ずつの村人が掴み、必死に炎から引きはがす。フィリアはずるずると連れ去られながら、自分の家族の遺体が燃える様子を、瞬きもせずにずっと見つめていた。
そして。
そのまま呆然となったフィリアは、たった1人になった家で眠り、翌日目覚めると、彼女は脱け殻のように物を話さなくなっていた。膝を抱えて部屋の隅で丸まって、彼女は朝から晩までその場を動かなかった。
彼女を心配した村人は、以前彼女の両親が話していたんだけど……と、遠い親戚のことを彼女に教える。フィリアはよくわからないながらも「そこに行けばいいの?」とふらりと立ち上がった。まるで、炎の前で見せた激情などないように、いや、家族なんて最初からいなかったかのように、彼女は淡々と振舞い、人々を心配させた。
それからのフィリアは、誰にも何も聞かず、旅支度を整え、誰にも何も言わずに村から出て行った。彼女は、ごとごとと揺れる馬車の幌で眠り、心を殺して日々を過ごすうちに気付けば自分の心を守るため、過去を忘れていった。
村にいたことも。家族がいたことも。そして、あの村の傍にあったアルベルトの別荘のことも、アルベルトのことも。すべて、あの村に紐づいている記憶を、彼女はしまい込んで蓋をした。そうするしかなかったのだ。それは幼かった彼女が生きるために無意識に選んだことだった。