あなたを忘れて生きていた
「怒っていないの? あなたを忘れたことを……」

「それこそ馬鹿だ。わたしは、君が生きていてくれたことがどれだけ嬉しかったか……」

 2人は互いに見つめ合った。ようやく、彼らは本当の意味で再会を果たしたのだ。フィリアが見上げれば、アルベルトもまた、僅かに瞳の端に涙を浮かべていた。

「キスをしてもいいかい? 頬に」

「……ええ」

 アルベルトは「ありがとう」と言って、涙に濡れる彼女の頬に唇を落とし、それから彼女の手の甲にまたキスをした。フィリアは恥ずかしそうに

「あなた、本当に大きくなったのね。わたしより小さかったのに」

と言って、微かに微笑んだ。彼女のその言葉を聞いて、ああ本当に思い出してくれたのだ、とアルベルトは心から安堵の息を漏らす。

 それからしばらくすると、誰かがドアをノックした。アルベルトが「どうぞ」と言うと、侍女が入って来た。

「失礼いたします。アンブロス子爵令嬢カタリナ様が到着なさいました」

「そうか。ありがとう」

 アルベルトはフィリアを振り返って小さく笑った。

「やっとカタリナ嬢がいらしたようだ。もし、君が歩けるようだったら一緒に行こう」

「どこに?」

「どうして君がここに来ることになったのか、話を聞きにさ」

 そう言って彼はフィリアに手を差し出した。ベッドからゆっくりと起き上がったフィリアは、その手の上に自分の手を乗せて「どうにか、大丈夫みたい」と小さく笑った。彼は「気分が悪かったら、いつでもわたしにもたれかかると良い」と言って、彼女をエスコートした。
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