あなたを忘れて生きていた
「まあ、アデルバート様、このお品は素晴らしいものですね」
「そう言って貰えるとこちらも嬉しい。可能であれば、御父上にこちらの販路の拡大をお願いしたいのだが」
「何をおっしゃっているんですか。カトゥール伯爵家のご令息のお願いであれば、子爵家である我が家は従わざるを得ないというのに」
「いや、そういう肩書きでどうこう、と言うことは好きではない……ん?」
カタリナと話している男性は20代前半に見える。少し伸ばした銀髪をうなじ辺りでまとめている。前髪は真ん中で分けており、顔立ちがはっきりと見えるが、これまた整っていた。まるで、白い馬にでも乗ってお嬢様を迎えに来てくれる姿が容易に想像出来てしまう……と、思いを馳せながらティーカップを彼の前に置き、それからカタリナの前に置いた。
すると、突然
「もしかして……フィリアじゃないか?」
と、その男性が声をかけて来る。驚いてフィリアはぱちりと瞬いた。
「えっ?」
ついでに、声が出た。小間使いである自分は、この場で発言の権利はないというのに。驚いて口を片手で抑えると、カトゥール伯爵令息がじっとこちらを見て、いささか興奮気味に言葉を続けた。
「ああ、フィリアだな? そのほくろに茶髪、何より、面影がある!」
「……」
そうですが……と思いながらも、フィリアは困ってカタリナの方を見る。
「アデルバート様。フィリアをご存じでいらっしゃるんですか? フィリア、あなたは? 発言を許すわ」
「いえ、存じ上げません」
そのフィリアの言葉を聞いて、アデルバートは落胆のため息を一つついた。
「ああ、もう会えなくなって結構な年数経ったから、そう言われても仕方がないが……」
カトゥール伯爵子息の名前はアデルバートと言うようだ。彼は、じっとフィリアを見上げて、それから微かに微笑む。
「アルベルトだ。まさか、覚えているだろう? ビッテルの森の近くに別荘があって、そこによく行っていた……」
「アルベルト……ビッテルの森……?」
眉根を寄せるフィリア。すると、カタリナが彼女の代わりに返事をする。
「アデルバート様。この子は昔の記憶がほとんどないんです。そうよね? フィリア」
「はい」
頷けば、男性は「えっ」と声をあげ、それから「ううん」と唸る。
「カタリナ嬢、もし、可能であれば帰りに少しだけ彼女と話をさせていただきたいのですが」
「ええ、勿論ですわ。フィリア、ひとまず下がりなさい」
フィリアは仕方なく「かしこまりました」と言って頭を下げ、その場から離れたのだった。
「そう言って貰えるとこちらも嬉しい。可能であれば、御父上にこちらの販路の拡大をお願いしたいのだが」
「何をおっしゃっているんですか。カトゥール伯爵家のご令息のお願いであれば、子爵家である我が家は従わざるを得ないというのに」
「いや、そういう肩書きでどうこう、と言うことは好きではない……ん?」
カタリナと話している男性は20代前半に見える。少し伸ばした銀髪をうなじ辺りでまとめている。前髪は真ん中で分けており、顔立ちがはっきりと見えるが、これまた整っていた。まるで、白い馬にでも乗ってお嬢様を迎えに来てくれる姿が容易に想像出来てしまう……と、思いを馳せながらティーカップを彼の前に置き、それからカタリナの前に置いた。
すると、突然
「もしかして……フィリアじゃないか?」
と、その男性が声をかけて来る。驚いてフィリアはぱちりと瞬いた。
「えっ?」
ついでに、声が出た。小間使いである自分は、この場で発言の権利はないというのに。驚いて口を片手で抑えると、カトゥール伯爵令息がじっとこちらを見て、いささか興奮気味に言葉を続けた。
「ああ、フィリアだな? そのほくろに茶髪、何より、面影がある!」
「……」
そうですが……と思いながらも、フィリアは困ってカタリナの方を見る。
「アデルバート様。フィリアをご存じでいらっしゃるんですか? フィリア、あなたは? 発言を許すわ」
「いえ、存じ上げません」
そのフィリアの言葉を聞いて、アデルバートは落胆のため息を一つついた。
「ああ、もう会えなくなって結構な年数経ったから、そう言われても仕方がないが……」
カトゥール伯爵子息の名前はアデルバートと言うようだ。彼は、じっとフィリアを見上げて、それから微かに微笑む。
「アルベルトだ。まさか、覚えているだろう? ビッテルの森の近くに別荘があって、そこによく行っていた……」
「アルベルト……ビッテルの森……?」
眉根を寄せるフィリア。すると、カタリナが彼女の代わりに返事をする。
「アデルバート様。この子は昔の記憶がほとんどないんです。そうよね? フィリア」
「はい」
頷けば、男性は「えっ」と声をあげ、それから「ううん」と唸る。
「カタリナ嬢、もし、可能であれば帰りに少しだけ彼女と話をさせていただきたいのですが」
「ええ、勿論ですわ。フィリア、ひとまず下がりなさい」
フィリアは仕方なく「かしこまりました」と言って頭を下げ、その場から離れたのだった。