あなたを忘れて生きていた
「ヴィリー、これはどういうことかしら? 説明をしてちょうだい」

「その……」

 ランマース家の応接室に行くと、カタリナの前にヴィリーが項垂れて立っていた。カタリナの声音は、若干とげとげしい。その問いに、ヴィリーは口ごもる。

「カタリナ嬢、来てくださったことを感謝します」

「感謝するのはこちらですわ。アデルバート様にお聞きしなければ、フィリアの居場所なんてわからないもなにも、調べもしなかったですから。さ、2人ともお座りください。2人というのは、アデルバート様とフィリアのことよ。フィリア、どうぞ、ここに座って」

 ヴィリーを差し置いて自分が座る? すっかり困惑をしてフィリアはカタリナを見て、ヴィリーを見て、アルベルトを見た。アルベルトはフィリアの手を引っ張って、無理矢理カタリナの横に座らせる。まさか自分がカタリナの真横に座る日が来るなんて、と恐縮するフィリアに、カタリナが話しかけた。

「フィリアはどうしてこちらのランマース家に来たのかしら?」

 その問いかけの意味が分からず、フィリアは困惑の表情で今度はヴィリーを見る。すると、彼女の代わりにヴィリーは頭を下げて

「も、申し訳、ございません……アンブロスの旦那様よりご指示があって……彼女をどこか遠くに捨てて来いと……」

「えっ……」

 それに驚いたのはフィリア1人らしい。カタリナもアルベルトも「やっぱりそうか」という表情だ。

「でも、捨てて来なかったのね。どうしてかしら」

「そ、それは……そんなことをしては……お嬢様が悲しまれると思って……」

「その答えはちょっと気に入ったわ。ねえ、でも、お父様がそんなことを言い出したのは、どうしてだと思う? 誰が何の報告をして、そんなことになったのかしら? ヴィリー、答えなさい」

 ヴィリーは俯いて唇を噛み締めている。

「わたしが……アデルバート様がフィリアに興味があるようだと……それを、旦那様にご報告をしたせいだと思います……」

 それへは、アルベルトがなんとか仲裁をしようと言葉を挟む。

「だが、君のおかげでフィリアを遠くに捨てられなくてよかった。カタリナ嬢のおかげと言うべきか」

「いいえ。わたしは何も」

 首を横に振るカタリナ。フィリアはどうしてよいかわからず、きょろきょろと3人の顔を見るだけだ。
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