あなたを忘れて生きていた
2.思い出①
カトゥール伯爵子息のアデルバートは、幼少期はあまり体が丈夫ではなかった。中でもとりわけ気管支が弱かったため、年に何度も別荘に行って養生をしていた。そこは、森の近くであまり馬車も行きかわないため土埃もなく、とても美しく静かな場所だった。
ある時、8歳のアデルバートは自分の寝室に隠し扉があることに気付く。それは、別荘の持ち主であるカトゥール伯爵すら知らないものだった。彼は、その隠し扉のおかげで護衛騎士の目を盗んでは別荘を抜け出していた。
彼は、体の調子が本当に悪い時は数日寝込むこともあり、部屋に人を呼ぶ時だけベルを鳴らす。そのため、彼がほんの2時間ほど別荘を離れても気付く者はいなかった。
使用人たちは最初彼を気遣っていたが、何度も訪れてはよく眠っているだけの彼のことを、あまり気にしなくもなった。彼は静かな子供だったし、その反面用事がある時は遠慮なく人を呼ぶ。それが人々の共通認識になるまで時間はそうかからなかった。おかげで、彼は何時間も放置をされることがほとんどで、自由に別荘から抜け出すことが出来たというわけだ。
隠し扉の先は暗く細い道が続き、出口は別荘のブロック塀の外側だった。少し歩けば森の中に入ってしまう場所。彼は賢い少年だったので、出来るだけ危ないことは避けようと、あまり森も深入りはしない。その日も、森に少し入ったところに開けている草原に行き、ごろりと横になっていた。
「あれ?」
暫くすると、がさがさと茂みが揺れる。まさか、野生動物がいるのだろうか。アデルバートは、それまでこの森で動物に出会ったことがなかったため、完全に油断をしていた。いざ、それが近くにいるのでは、と思うと幼い彼でも「怖い」と恐怖心が湧き上がる。
だが、次の瞬間。
「あら?」
茂みをかき分けて出て来たのは、野生動物ではなく一人の少女だった。長い茶髪をうなじでまとめ、装飾も何もない黄色いワンピースを着ている。背中にかごを背負って、そこには草が――のちにそれが薬草だということがアデルバートにはわかったのだが――沢山入っている。
ある時、8歳のアデルバートは自分の寝室に隠し扉があることに気付く。それは、別荘の持ち主であるカトゥール伯爵すら知らないものだった。彼は、その隠し扉のおかげで護衛騎士の目を盗んでは別荘を抜け出していた。
彼は、体の調子が本当に悪い時は数日寝込むこともあり、部屋に人を呼ぶ時だけベルを鳴らす。そのため、彼がほんの2時間ほど別荘を離れても気付く者はいなかった。
使用人たちは最初彼を気遣っていたが、何度も訪れてはよく眠っているだけの彼のことを、あまり気にしなくもなった。彼は静かな子供だったし、その反面用事がある時は遠慮なく人を呼ぶ。それが人々の共通認識になるまで時間はそうかからなかった。おかげで、彼は何時間も放置をされることがほとんどで、自由に別荘から抜け出すことが出来たというわけだ。
隠し扉の先は暗く細い道が続き、出口は別荘のブロック塀の外側だった。少し歩けば森の中に入ってしまう場所。彼は賢い少年だったので、出来るだけ危ないことは避けようと、あまり森も深入りはしない。その日も、森に少し入ったところに開けている草原に行き、ごろりと横になっていた。
「あれ?」
暫くすると、がさがさと茂みが揺れる。まさか、野生動物がいるのだろうか。アデルバートは、それまでこの森で動物に出会ったことがなかったため、完全に油断をしていた。いざ、それが近くにいるのでは、と思うと幼い彼でも「怖い」と恐怖心が湧き上がる。
だが、次の瞬間。
「あら?」
茂みをかき分けて出て来たのは、野生動物ではなく一人の少女だった。長い茶髪をうなじでまとめ、装飾も何もない黄色いワンピースを着ている。背中にかごを背負って、そこには草が――のちにそれが薬草だということがアデルバートにはわかったのだが――沢山入っている。