あなたを忘れて生きていた
 アデルバートは彼女を一目見ただけで「不思議な女の子だ」と思って、胸をときめかせた。彼は、それまでに貴族の子女数名と会ったことはあったが、平民の女の子とは縁がなかったし、体があまり強くないため、家からもあまり出たことがなかった。だから、彼にとって「不思議な服を着て、不思議なかごを背負っている」けれど、なんとも可愛らしい少女との出会いに、鼓動は早まった。

「どこの子供?」

 アデルバートとそう年齢が違わないように見えるのに「子供」とアデルバートを呼ぶ。彼は、そのことにカチンと来たので

「子供じゃないぞ! ア……アルベルトだ!」

と叫んだ。なんとなく彼は「名前を知られない方が良い」と本能でそう思った。アルベルトはアデルバートから派生をした名前だ。咄嗟にしては良い嘘をつけたと彼は思う。

 それを聞いた彼女は「子供でしょ? わたしも子供だもの。あなたも子供よね?」と、きょとんとした表情で言った。

「うっ……」

「わたしは7歳なの。あなたは?」

「ぼ、僕は8歳だ!」

 自分の方が年上だ。アデルバートは、そう言って「ふん」と鼻を鳴らした。だが、彼女は疑いの目を向ける。

「ええ? 本当? わたしより小さいのに……」

「本当だ! その、背は、伸びる! そのうち!」

「うふふ、そうね、確かにそうかもね。お母さんが言ってたわ。男の子って後から大きくなるんだって」

 意地になって叫んだものの、彼女がそういって笑えば、アデルバートは少し恥ずかしくなった。

「ごめん。むきになった」

「えっ? 何が? ね、どこから来たの? いいお洋服を着ているもの、きっとお金持ちのお家の子供なんでしょ。いいなぁ~! あっ、隣に座ってもいいかしら? わたし今日は沢山薬草を摘んできてくたくたなの!」

 そうペラペラと喋って、何故かフィリアはアデルバートの隣に腰を下ろした。一体どうしてこの少女は自分の隣に座るんだ、と思いつつも、彼はどきどきしながら「うん」とだけ頷いた。

 それが、アルベルトとフィリア。彼らの出会いだった。
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