あなたを忘れて生きていた

4.アデルバートからの好意

 それから数日、フィリアの元にアルベルトからあれこれとプレゼントが届いた。自分はアンブロス子爵邸のただの使用人だから受け取れない。そう思ったものの、カタリナに「いいじゃない」と言われ、受け取るようにと指示をされてフィリアは困惑をする。

 上質なハンカチ、上質なピルケース、上質な髪留め……どうしてそんなものを自分に贈ってくるのか、フィリアにはわからない。それぞれにメッセージカードがついていて「最愛の人へ」といつも書いてある。

 婚約者だと言われてもピンと来なかったが、最愛の人とまで書かれてはなんだか居心地が悪い。困惑が続く中、ついに彼はフィリアに会いにやって来た。

「フィリア」

 裏庭で洗濯物を取り込んでいると、アデルバートが姿を見せる。

「あ……」

 無言でぺこりと頭を下げるフィリア。自分には発言権がない、とばかりに黙り込む。

「これを、今日は受け取ってくれないか」

 そう言って彼が彼女に差し出したのは、小さな花のモチーフがついたネックレスだった。そう大ぶりでもないため、それぐらいならつけることは出来そうだ。けれども、だからといって素直に受け取るわけにはいかない。

「あの……発言を、許していただけますでしょうか」

「勿論だ」

「どうしてこんなにわたしに……プレゼントをくださるんですか」

「君がわたしの婚約者だからだ」

「でも……わたしは、あなたを覚えていません」

 その言葉に、アデルバートは苦笑いを見せる。

「そうだな」

「でも、あなたは思い出せとは、わたしには言わないですよね……」

「そうだな」

「それは……何か、あなたがわたしに悪いことをしたからですか?」

「は?」

 心底反応だけで、彼はその声を上げた。それから、軽く咳き込んで「いや、失礼」と言う。彼のその反応を見て、フィリアは「どうやら違うらしい」と思い、申し訳ない気持ちになる。

「そうだな……多分、悪いことはしていないと思う。だが、申し訳ないと思うことは……したというか、していないから申し訳ないと言うか」

「意味がわかりません」

「わからなくていい。それから、そうだな。思い出して欲しいが……思い出さなくても、いい。君は君だ。わたしは、今の君のことも大事にしたい」

 まだ会って2回目で何を言うんだろうかとフィリアは思う。それから、彼は明確に昔の自分と今の自分を分けているのだ、とも。

 フィリアは静かにアデルバートを見た。美しい銀髪に、美しい輪郭に、利発そうな顔立ち。背も自分より随分高く、男性らしい体つきだ。見れば見るほど、まったく思い出すことが出来ない。
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