No YOU No Life

約束

「陽菜ー!」

文化祭の打ち合わせを終えて下校中、後ろから声をかけられた。

少し複雑な気持ちになる。

「瀬賀くんも帰り?」

瀬賀那津は軽く頷いて、目を細めた。
その表情が柔らかさに試合中とは別人のよう
だ、とふと思った。
そういえば真斗も普段優しいのに試合になると絶対譲らないよなあと思いかけて、また複雑な気持ちになって押し黙ってしまう。

「桜丘ってもうすぐ文化祭なんだよね?」

予想だにしない質問をされたので一瞬面食らって不自然な返事をしてしまった。

「いつなの?」

「今週の土日だけど」

「土曜あいてる!俺行ってもいい?一緒に回ろうよ」

へ?

瀬賀那津が?桜丘に?
いやいやいやそれは困る。
一緒になんて回れば試合の時のようにまたファンに睨まれるだろうし、第一真斗に会わせたくない。

「あの私文化祭実行委員の仕事あって」

「いいよ、合間合間でも、終わったあとでも。とにかく一緒に回りたいだけだから」

真っ直ぐな瞳が私の目だけを捉えていて、瀬賀那津の瞳に映っている自分がひどくどぎまぎして見えた。どこを見ていいかわからなくなる。

「わかったわかった。忙しいからちょっとだけになっちゃうかもしれないけどね」

一刻も早く逃げ出したくて私は目を逸らして誘いをのんだ。

それが狙いだったらしい。瀬賀那津はいたずらっぽく笑って

「陽菜の目綺麗」とさらに私の顔を覗き込む。
顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。
突き飛ばそうとした瞬間、瀬賀那津は遠ざかった。

ぽつりと彼が何かを呟いた気がしたが聞こえなかった。
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