No YOU No Life
「瀬賀って髪染めてるの?」

「ううん、地毛。高校入学する時疑われて大変だったんだから。」

気がつくと触れていた。柔らかくて猫っ毛ぽい。光にあたってブロンドのように見えた。

「綺麗」

思わずそんな言葉が口から零れた。

瀬賀が急に立ち上がったことで私は我に返り手を引っこめる。なんで頭なでなでしてんだ。

「俺ね、容姿を褒められること多くてさ」

突然自慢かと突っ込みたくなったが、言わないでおく。

「かっこいいとか、言われすぎて、もう俺の中ではおはようとかと一緒というか。もう言われても何も感じないし、むしろ挨拶される方が嬉しいとまで思っちゃうんだけど」

少し間があった。

「今、陽菜に綺麗って言われてすげー嬉しかった」

逆光になっていてどんな表情で瀬賀がそれを言っているのか分からなかったが、かすかに耳が赤くなっているのが分かった。

瀬賀那津がこんなふうに照れているところを見たのは初めてかもしれないとふと思った。いつも恥ずかしげのないことを言ってくるくせに。

「なんにも考えず言っただけなのに?」

「陽菜の言葉はいつでも俺にとって特別だから。初めて会った日だって」

「初めて会った日って、あの…痴漢の時でしょ?私なんか喜ぶようなこと言った?」

瀬賀那津はそれ以上、この話を続ける気は無いようで、目を細めて、ふっと笑うと視線をこちらに戻した。彼はたまに大人びた表情をすることがあった。私が知らないことを何か知っているような、どこか寂しげな顔をしたような気がした。

「さて、お腹すいたし、なんか食べに行くか!」
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