No YOU No Life
時刻はもう14:00になっていた。

さっき買ったばかりのたこ焼きを片手によっこいしょと体育館裏の数段しかない階段に腰かける。
衣装を汚さないように、と考えていたが、思いのほかたこ焼きが並んでいて立ちっぱなしだったせいでもう足が限界だった。
心の中で琴葉に謝っておく。

「冠城はあの後大丈夫だった?」

あの後、というのは試合の後のことだろうな。
真斗の憔悴しきった姿を思い出して一瞬心が陰った。
でも、昨日も元気そうにしてたから、心配はしてない。

「大丈夫、では無かったかな。でも真斗は大丈夫だよ」

「どっちだよ」

「私が大丈夫にしたから大丈夫。真斗を元気づけることに関してはプロなので」

少しどや顔をすると、瀬賀那津がふはっと吹き出してから、すっと真剣な顔になった。

「もし俺が元気なくなっても元気づけてくれる?」

「うーんどうだろ」

瀬賀が分かりやすくしゅんと項垂れたのを見て、なんか大型犬みたいだと思った。

「嘘嘘、最初に助けてくれたのは瀬賀の方じゃん。1回くらいなら借り返すよ」

「その理論でいけば、陽菜は俺に借りなんてないけどな」

「どういう意味?」

「陽菜はしらなくていいの。てか、やっと瀬賀って呼び捨てで呼んでくれるようになったね」

こちらが考え込んでいると、瀬賀はぱっと顔を上げて、いつもの真っ直ぐな瞳でこちらを見ていた。耳としっぽが見える。

「ま、ほんとは下の名前で呼んで欲しいんだけどな~」

那津くん那津くんと試合で黄色い声援を浴びて居たのを思い出し、少し苦笑いする。でも。

「那津っていい名前だよね」

「そう?ただのキラキラネームだよ」

「ううん。なんか爽やかな感じで私は好きだよ。瀬賀に似合ってる」

あれ。反応がかえってこない。

「ねえ、人が褒めてるのに聞いてないの!?」

パシンと軽く背中を叩くが、やはり反応が無い。

「瀬賀?」

大きな手で顔を覆うようにしていた瀬賀はここでやっとこちらを見下ろし目が合った。

「あのさ…ふつーに照れるから。陽菜に褒められたら」

私は困惑した。急に今まで何を話していたのか、どうやって目を合わせていたのか、分からなくなった。

思わずぱっと目を逸らす。

口にたこ焼きを放り込む。冷たい。
せっかく焼きたてだったのに早く食べればよかったなとふと思った。
< 25 / 36 >

この作品をシェア

pagetop