No YOU No Life
隣のクラスが出店しているクロワッサンたい焼きは、例年非常に大人気ですぐに売り切れるので、今年は仕入れをとんでもなく増やしたそうだ。
そのせいで、逆に余って困っているらしい。

食べに来てーというLINEが11時頃に届いていた。
今はどうだろうか。

着いてみると、お昼をすぎているにもかかわらず、大行列が出来ていた。余って困ってはいなさそうだ。
「うわっすごいな」
歩いている時は一言も話さなかった真斗だが、あまりの行列に気圧されたのか口を開いた。

時刻は14:30をまわっていた。
あと30分でシフトに戻らなくてはならない。
買ったらすぐ食べて解散になってしまいそうだが、今はそれがありがたかった。
少し二人きりになるのが気まずい。

「ねえ真斗」

「ん?」

「ありがとね助けに来てくれて」

こちらに向けられる視線からは先ほど感じたトゲトゲしさは消え、いつもの真斗に戻ったように感じる。

「体育倉庫に閉じ込められるバカがいるか」

冗談ぽく頭を叩かれるが、全く痛くない。

「だって開いてたのが悪くない?」

「入るのも悪い」

「…ごめんなさーい」

やっぱりいつもの真斗だ。居心地が良くて、私の扱いをよくわかっている。

柔らかく目を細めていた彼がふと真顔に戻った。

「…瀬賀とは何したの」

真斗の声のトーンが少し下がったように感じた。
私は思わずゴクリと息を飲み、平静を装って答える。

「あまり何もしてないよ?たこ焼き食べて少し話してたくらいかな」

「そっか」

質問してきた割に素っ気ない返事だなと思っていると、再び口が動いた。

「たこ焼きよりクロワッサンたい焼きの方が陽菜は好きだと思う」

「え?」

あまりにも予想の斜め上の事を言われて拍子抜けする。

「私クロワッサンたい焼き食べたことないよ?」

「うんだから、クロワッサンたい焼きの方が陽菜は好きだと思うって言ってんの」

「うん?」

真斗の言ったことの意図がよく分からないが、真斗がいつの間にか進んでいた列にスタスタと歩いていってしまったため慌てて追いかける。

気がつけば次にレジというところまで来ていた。
慌ててポケットから小銭を出そうとしていると、真斗に止められた。

「こないだ試合に勝ったら飯おごってって約束したじゃん。負けたから俺のおごりね。」

よく分からないが、真斗は頑固なので1度言い出したら聞かないことを私はよく知っている。

「ご馳走様ですー」

満足げな横顔を見て少し安心した。



「ん!!!!おいしい!!!」

香ばしい匂いに包まれながら、サクッとしたたい焼きの表面に歯を入れる。
クロワッサンたい焼きは想像以上に美味しかった。

これだけ並んだかいがあるな。


「ね?陽菜はクロワッサンたい焼き好きって言ったでしょ?」

また得意げな顔をする真斗がいつにも増して幼く見えた。

「まあたこ焼きも美味しかったけどね」

地雷を踏んでしまったらしい。
真斗は分かりやすく拗ねた。
というか、さっきからやたらとたこ焼きとクロワッサンたい焼きを比べたがるのは何故なのだろうか。

まあ、真斗のご機嫌とっておこう。私、幼なじみだし。

「でも、クロワッサンたい焼きの方が好きかな!」





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