生まれ変わって三度目の恋、今あなたに触れたい〜めぐり逢いて、この手が離れても何度でも〜
「奉公人」貴臣の喪失
その女性は嘘の下手な方でした。
商家に奉公人としてつかえる身とは表向き。
母は元遊女。
商人に身請けされ、やってきました。
本妻のいる家では肩身の狭いものでした。
間に生まれたのが貴臣という名の男です。
「貴臣。行くぞ」
腹違いの兄。
父が亡くなってからは下仕えとして扱われます。
生きている理由を見いだせない。
なんと世界は色あせているのだろう。
そう思っていた時に出会ったのが百の花、牡丹でした。
紅をさす唇に目を奪われる。一度たりとも瞳に光はささない。
だが花を贈ったときだけ可憐に笑うのです。
桜が咲き誇ったあとに、庭で育った牡丹の花。
この無力な手で育てた花を義兄は手折って、その女に贈りました。
「はっ……はは」
ちくしょう。なんて腹立たしいんだ。
牡丹の花を手にして微笑みを向けるのが自分ではない。
気になる女に声もかけることも出来ず、影を見下ろすばかりなのだろうか。
あぁ、この微笑み。向けられたい。
花の香りを嗅ぐ小さな鼻のてっぺんを突いてみたい。
朱き唇を親指の腹で撫でてみたい。
白黒の世界でただ一人、色鮮やかに見えたのです。
私は何も君を知らないというのに。
ひとめぼれと言うにはあまりに粘り気を帯びている。
あぁ、むかつく。
たいして物欲もないと思っていたが、自分の見誤っていた。
当てつけのように君に視線を送り、交わるたびに口角があがる。
そらされると振り向かせたくなるもの。
だんだんと君の反応を見ることが楽しくなっていた。
恋が焼き付いたのは息の白くなるかわいた日のこと。
(なんのために義兄のもとにいるのか。いっそ外へ出てしまおうか。どうせなら君をさらってみたいものだ)
叶うはずもない。鼻で笑うばかり。
私にはもうプライドもない。
義兄に逆らう気もなかった。
そう生きてきたのは、あきらめていたから。
どうでもいいと目的もなく、ぼんやりと花を育てた。
商家に奉公人としてつかえる身とは表向き。
母は元遊女。
商人に身請けされ、やってきました。
本妻のいる家では肩身の狭いものでした。
間に生まれたのが貴臣という名の男です。
「貴臣。行くぞ」
腹違いの兄。
父が亡くなってからは下仕えとして扱われます。
生きている理由を見いだせない。
なんと世界は色あせているのだろう。
そう思っていた時に出会ったのが百の花、牡丹でした。
紅をさす唇に目を奪われる。一度たりとも瞳に光はささない。
だが花を贈ったときだけ可憐に笑うのです。
桜が咲き誇ったあとに、庭で育った牡丹の花。
この無力な手で育てた花を義兄は手折って、その女に贈りました。
「はっ……はは」
ちくしょう。なんて腹立たしいんだ。
牡丹の花を手にして微笑みを向けるのが自分ではない。
気になる女に声もかけることも出来ず、影を見下ろすばかりなのだろうか。
あぁ、この微笑み。向けられたい。
花の香りを嗅ぐ小さな鼻のてっぺんを突いてみたい。
朱き唇を親指の腹で撫でてみたい。
白黒の世界でただ一人、色鮮やかに見えたのです。
私は何も君を知らないというのに。
ひとめぼれと言うにはあまりに粘り気を帯びている。
あぁ、むかつく。
たいして物欲もないと思っていたが、自分の見誤っていた。
当てつけのように君に視線を送り、交わるたびに口角があがる。
そらされると振り向かせたくなるもの。
だんだんと君の反応を見ることが楽しくなっていた。
恋が焼き付いたのは息の白くなるかわいた日のこと。
(なんのために義兄のもとにいるのか。いっそ外へ出てしまおうか。どうせなら君をさらってみたいものだ)
叶うはずもない。鼻で笑うばかり。
私にはもうプライドもない。
義兄に逆らう気もなかった。
そう生きてきたのは、あきらめていたから。
どうでもいいと目的もなく、ぼんやりと花を育てた。